he ALBUM「ZELKOVA」ディスクレビュー

ZELKOVA

ALBUM

he

ZELKOVA

三上美容院

2014.03.12 release

<CD>


日常の中で輝く示唆と発見を体現するサウンドスケープ

 メロディック・パンクとポスト・ロックの影響下から日本で独自に派生していったバンドの豊穣のひとつの金字塔とも呼べる作品が出現した。いや、そういう言い方は大げさかもしれない。前作『Three lines on Paper』から4年。4年の歳月のあいだに彼らに近しいバンドはどんな変遷を遂げただろうか。例えばthe band apartはキャリア初の全曲日本語詞のアルバム『街の14景』をリリース。riddim saunterは残念ながら2011年に解散。そしてバンド・シーンを見渡すと、幾何学的なギター・フレーズと変則ビートはある種の定石と化している。ひとつの季節は終わり、そしておのおののバンドは前を向いて歩いたり走ったり。決して短くはないその期間にheが向かった先は、何に惑わされるでもなく、かと言って従来と同じことをするわけでもない、4人が集まれば、4つの楽器とふたつの声があればこんなにも躍動感に満ちたサウンドスケープが生まれることの声高じゃない声明だった。

 1曲目の「FREE」(なんて身も蓋もなく堂々としたタイトル!)からして、クリーントーンのフレーズとシンセを思わせるコードワークが輝度の高いアンサンブルを生み出し、驚くほど素直なリズムはどんどん前進する。関節外しのビートや息を飲む抜き差しより、今、彼らが伝えたいことはそのサウンドスケープの中にあるのだろう。フリーソウル的な洒脱なムードの中に昭和の深夜ラジオを思わせる歌詞がユニークな「Signals」、さりげなくピアノも取り入れつつ、サビはグッとエモい「The Other World」、彼らの地元の新座市での青春期を思わせる歌詞が新鮮な「NIIZA」、3拍子を感じるリズムに乗せて、冬のにおいや温度を感じるメロディが美しいラスト・ナンバー「Before Dawn」。

 heはパーティを彩るバンドでもないし、シリアスに生死について歌ったりしないけれど、日常に近いところで妥協なく、つねになにかを発見している、音楽的に根を深く張ったバンドになった。ちなみにアルバム・タイトルの“ZELKOVA”は欅(けやき)を意味し、欅は普段のスタジオワークやレコーディングも行う、地元・埼玉の県木でもあるそう。繰り返しになるが、4人が集まればそこは最強の音楽の磁場になる。日本のバンド・シーンの新しいスタンダードにして、あなたの街や心のサウンドトラックにもなり得るロックがここで鳴っている。

(石角友香)

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