ハンサムケンヤ – 金髪マッシュルーム&黒ぶちメガネのアーティストが、完成させた初のフル・アルバム『アムネジア』。そこに見えてくる、彼の心模様とは?

ハンサムケンヤ

日々の想いを忘れないために、そして、自分のことが忘れられないように、ハンサムケンヤは歌う。2011年にインディーズでリリースした1stミニ・アルバム『これくらいで歌う』から3年。完成した彼のメジャー・1stフル・アルバムは、”記憶喪失”を意味する『アムネジア』というタイトルに反して、耳に残り続ける、そんな作品だ。その秘密は、ポップなメロディを届けるどこかねじれたバンド・サウンドと日常を描きながらも非日常に誘うかのような歌詞世界。その絶妙なさじ加減やマッチングがとにかくクセになるのだ。天然か、はたまた確信犯か。まだまだ謎が多いハンサムケンヤのポップ・ワールドに迫った。

INTERVIEW & TEXT BY 小野田雄

 

友達付き合いが減って、より孤独になっていったというか(笑)

──前作ミニ・アルバム『ブラックフレーム』から約1年。ケンヤくんにとって今回の1stフル・アルバム『アムネジア』完成まではどんな期間だったんですか?

生活が劇的に変化したわけではないんですけど、(メジャー・デビュー後)友達付き合いが減って、より孤独になっていったというか(笑)。仕事が増えたおかげで友達と約束できなくなって、「土日ヒマ?」って聞かれたら、「行けたら行くわ」って答えるんですけど、「行けたら行くわ」っていうのは関西だと断り文句を意味するんですよ。でも、僕の場合はそうじゃなく、ガチで「行けたら行きます」なんですよね。そして、結果的に仕事が入ってしまい、遊びに行けなくて、友達がどんどん減っていくっていう(笑)。そういう変化は今回の曲にも表れていて、前作までは広い視野で物事を批判していたのに対して、今回は出来上がってみて、曲がより個人的なものになっているなって気づかされましたね。

──リリース期間が空いたのは、今回のアルバム制作にじっくり向き合いたかったから?

それもありましたね。僕は曲のストックが多いので、その中から選んでレコーディングしつつ、1枚のアルバムということを考えたときに足りない要素を補うためにあらたな曲をたくさん書き下ろしたんですけど、そのための時間をしっかり取ったんです。曲で言うと、「トワイライダー」、「ミス御堂筋ガール」はそうやって生まれたものですね。

外部記憶装置というか、外付けハードディスクみたいなもの

──そして、以前出した2枚のミニ・アルバム『ゴールドマッシュ』と『ブラックフレーム』は金髪にメガネというケンヤくんのトレードマークを抽出したタイトルが付けられていましたが、今回、”記憶喪失”を意味する『アムネジア』というアルバム・タイトルを付けたのは?

『ゴールドマッシュ』と『ブラックフレーム』という2枚を出したあと、自分の中で次のアルバム・タイトルは“ハンサムケンヤ“になるんだろうなと漠然と想像していたんですけど、そのタイトルを付けたら完結してしまうんじゃないかって思ったんです(笑)。あと、自分の名前をアルバム・タイトルにするのもダサいなって。だから、違うタイトルを考えようと思ったんですけど、僕は日記のように曲を作っているので、すべての曲を録り終わったとき、このアルバムは外部記憶装置というか、外付けハードディスクみたいなものだなって思ったんですよね。自分は物覚えがいいほうではないし、曲を書くことですっきりしてしまうんです。だから、曲を書いては忘れるというプロセスの繰り返しがありつつ、それが作品という形になることで、忘れたことも思い出せるという意味で、”記憶喪失”を意味する『アムネジア』というタイトルにしたんです。

──では、初めてのフル・アルバムは、日常を描いた日記のコレクションであって、アルバムを録るにあたって“こういう作品にしたい”というイメージは特になかったと。

そうですね。一曲一曲、みんなに聴かせたい曲、世に出したい曲、歌謡曲のメロディを残したロック・サウンドでいきたいという、ただそれくらいでしたね。僕の曲作りは、“さあ、作るぞ”っていう意気込みのある取り組みではなく、すーっと出来てしまうものなんですよね。それがいいところでもあるんですけど、サウンドに関して、ギターのコードは手癖になりがちで、ハッとさせる要素がもっと必要だなって思うところもあって。だから、2曲目の「トワイライダー」は普段だったら使わないコード進行を意識しましたし、その意識はイントロ部分に色濃く表れていると思います。

──イントロに関していえば、どの曲も頭からリスナーを掴んでやろうという仕掛けが張り巡らされていますよね。

そうですね。それはやっぱり売れたいから(笑)、最初から聴く人を掴みたい。前作までは、自分の作品に自信を持っていて、“結構深い歌詞を書いてるし、いいメロディやし、これはイケるやろ”って思っていたんですけど、メジャーで1年半活動してきて、自分の残した結果を考えたら、全然まだまだだったんじゃないかって思ったんですね。だから、聴く人をもっともっとくすぐるイントロだったり、ハッとさせる歌詞を考えなきゃいけないんじゃないかって。でも、周りではやってる曲を聴いちゃうと、変な影響を受けちゃったりするし、なにより心が焦るというか、嫉妬心が沸くというか。だから、同世代のほかのミュージシャンの曲は聴かずに、ひとりで悩むしかなかったんですよね。その結果、答えはわからないし、友達は減っていくし、この1年は結構苦しい期間でしたね。

──つまり、イントロの仕掛けはこの1年の苦しい試行錯誤の成果だと?

そうですね。だから、はやりを意識するわけでもなく、誰かの真似事をするわけでもない、自分からひねりだしたキャッチーな曲たち。それがどういう結果に繋がるのかはわからないですけど、今回のアルバムにはそうした自分の色が表れていると思いますね。

いい意味で予想を裏切る、そんな曲作りを理想としている

──その色というのをもう少し言葉にしてもらえますか?

僕の制作チーム、サポート・メンバーやディレクターは、“ネコ騙しみたいな、びっくりさせる要素が必要だ”って言ってくるんですけど、僕はそういうことじゃないような気がして。自分のイメージとしては、聴きながら、おおおおおおーって徐々にアガっていく感じ。僕はザ・ビートルズのポール・マッカートニーのソング・ライティング、いい意味で予想を裏切る、そんな曲作りを理想としているんですけど、そういう想いはことさら意識せずとも自分の中でそもそも大前提になっていて、例えば、アルバム最後の曲「有名な映画」はバラード調ですけど、自分にとって初めて発表する3拍子の曲ですし、最後の1カ所だけびっくりするような大音量になっていたり、予想を裏切りたいという想いはそういう部分にも自然と表れていますね。

──そんな仕掛け満載のアルバムを1曲ずつ見ていきたいんですけど、まず、1曲目の「ランダム」は外から入ってくるニュースも、自分の内面もどちらもモヤモヤしていて、そのフラストレーションがバンド・サウンドで爆発していますよね。

この曲はアルバム制作直前、まさに友達が減っていく最初の段階に作ったものですね(笑)。ずっとモヤモヤしてる、この感じは僕の悩みの典型ですね。答えが出ないままに真夜中に苦しむんですけど、深い時間になると気持ちがハイになって“なんとかなるだろう”って思う。でも、そう思っても朝日が出た瞬間にまた気分がドーンと沈んで、立ちくらみしそうになる。でも、いくしかない! っていう、そういう心境が歌われています。まぁ、負のオーラがいちばん出ている曲なんですけど、音楽的にはアルバムの中でいちばんキーが高い曲でもあるし、歌い終わったら、見事にすっきりしてしまったという(笑)。

──そして、2曲目の「トワイライダー」はパーソナルな視点から街の風景を歌いながら、「この国にできた 大きな腫瘍」という引いた視点も含まれているという不思議な耳触りの一曲ですね。

僕は曲のアイデアを思いついたらメモするクセがあって、友達と飲んでるとき、あるいは散歩しているとき……そういうふとした瞬間に思いついたアイデアをメモして、歌詞を書くときにそれをまとめていくんですけど、「この国にできた 大きな腫瘍に取り込まれ」っていう一行が携帯電話に保存されていて、“ああ、いいな”と思ったんです。だから、その一節を用いて、僕の個人的な視点とその背後に潜む大きなものを対比させて、この曲を書き上げたんです。ただ、この曲は相当時間をかけて作り上げたので、そのとき、何を思ってこの曲を書いたのか、今は思い出せないくらい(笑)。でも、僕の曲はどれもそうなんですけど、聴いた人がどう受け取るか、どう解釈するかはその人それぞれの自由だし、むしろ、その自由な解釈にこそ音楽の奇跡があると思っているんですよ。

“ハンサムケンヤをもっと認知してほしい“という意識

──3曲目の「とおりゃんせ」はシンセをフィーチャーしたバンド・サウンドに乗せて、意味よりも言葉遊びに重きを置いた軽快な歌詞が展開されていますよね。

そうですね。もともとはこのアルバムに収録しなかった曲のAメロ部分をこの曲に流用しつつ、「以来以来以来以来イライラ……」というサビの部分から作り始めたものなんです。この曲の制作過程はかなり特殊で、最初はピアノで作ったスローなバラードだったんですけど、“ハンサムケンヤをもっと認知してほしい“という意識からよりアップ・テンポなアレンジに変化していったんですよね。

──それに対して、4曲目の「嘆き」はお経みたいな節回しがユニークですよね。

この曲は学級委員長をやらされていた中学時代のことがもとになっているんですけど、学年集会と全校集会でその年の目標をみんなの前で発表させられたあと、お腹が痛くなって母親に迎えに来てもらったエピソードが「臨場感の最中 大腸炎」というフレーズに凝縮されているんですね。そういう歌詞を先に書いて、あとから音を付けた曲なんですけど、言葉と音のハマりがいいので、ライブで歌っていて、すごく気持ちがいい曲です。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

M-ON! MUSICの最新情報をお届けします。

この記事に関するキーワード

この記事を書いた人