小南泰葉 EP「怒怒哀楽」ディスクレビュー

怒怒哀楽

EP

小南泰葉

怒怒哀楽

EMI RECORDS

2014.03.05 release

<CD>
※タワーレコード限定


“死にたい”の二乗は“生きたい生きたい”?

 聴き手によって好き嫌いは分かれるかもしれないが、現在の日本の音楽シーンにおいて屈指の“言葉の人”であることは疑う余地がない小南泰葉。昨年の1stフル・アルバム『キメラ』以来のリリースとなる今作「怒怒哀楽」は、“怒”と“怒”と“哀”と“楽”の新曲4曲に加えて、“恥”と“恥”の2曲のデモがボーナス・トラックとして収録されている。つまり、小南泰葉には“喜怒哀楽”の“喜”が欠落していて、その代わりに“恥”があるということ。思わせぶりな歌詞に逃げ込むことなく、そこに自ら感情のレッテルを貼るというのは、表現者として非常に勇気のいること。“エモい”という言葉がインフレを起こしている昨今、小南泰葉は本当のエモさとは何なのか、身をもって体現している。

 1曲目の「3355411」。このタイトルの数列には解説が必要だろう。曲のモチーフとなっているのは、携帯電話のキーで“死にたい”と入力するときの数字“3355411”を二乗すると今度は“生きたい生きたい”と入力するときの数字“11224111122411”になる、という都市伝説。現代社会における生きにくさを歌い続けてきた彼女の“それでも生きたい”という叫びで幕を開ける本作。そのテーマは“感情の解放”だ。

 甘い歌声には不釣り合いな猟奇的なフレーズが次々飛び出してくる「ボーダーライン」。本作でもっともメロウかつドラマチックな旋律でここからまたスタートしようと哀願する「終わりなき炎症」。人間の視点と猫の視点が交差するかわいらしい癒し曲「キャットダイバー」。まるでその感情の起伏の大きさをなぞるように、その音楽家としての表現力を本作で奔放に解き放っている小南泰葉。今後のさらなる飛躍を期待させるには十分な仕上がりだ。

 最後に蛇足を。前述した都市伝説、実は“3355411”を二乗してみても、本当の答えは“11224111122411”にはならない。さらに言うと、その本当の答えの数列が表すのは“生きたい生きたい”ではなく、“生きた液体”もしくは“生き絶え期待”だ。仮にそこまで踏まえた上で、あえてこの歌を歌っているのだとしたら、その絶望の深さに戦慄を覚えずにはいられない。

(宇野維正)

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