Salyu SINGLE「アイニユケル/ライン」ディスクレビュー

アイニユケル/ライン

SINGLE

Salyu

アイニユケル/ライン

トイズファクトリー

2014.02.26 release

<CD>


デビュ-10周年に相応しい、心に響き続ける希望の歌

 Salyuの新作「アイニユケル」は、故郷である福島の立ち入り禁止区域を離れ暮す家族と、いったんは音信不通となりつつも故郷へ戻ってきた主人公との人間ドラマを描く映画「家路」の主題歌である。今回、この映画のために書き下ろされた楽曲だ。そのことを踏まえて聴くなら、まず“アイニユケル”というタイトル自体、“言葉にするまでもなく心に在る強い想い”を指し示すかのように受け取れる。 
 
 誰もが思うことだろうが、Aメロが印象的だ。“君に キミに きみに”と繰り返され、メロディに対する言葉の乗せ方が簡素かつ細かく区切られ、そして“今も 想い 巡り”のように、後半にもこのリズムの言葉の乗せ方が続いていく。でも、それは主人公の心象を虚飾なしに取り出しぽつぽつと並べたかのようで、さらにそれを描くメロディ、そこに鳴っているコ-ドの響きの微妙な陰影も相まって、一つひとつの言葉に多くの情報量を与えもする。ただ、これは各コーラスの冒頭部分の印象であり、そこから始まり、まるでヒトとヒトの想いが繋がってくように、歌のなかの言葉も繋がりを見せ、サビの高みへと昇華していく。詞と曲とアレンジは小林武史が担当していて、曲全体からは祈りの要素も感じられる。

「アイニユケル」が具象的なら、カップリングの「ライン」は良い意味で抽象的だ。ハッキリとしたコ-ド進行の導きではなく、たゆたうような、モード的な音響の中でSalyuの声が軽やかに舞う。歌詞の世界観も独特で、輪廻を描くかのようだ。確かに聴き手の心を撫でて、でも撫でたことを気づかれず再び無音に還るかのような作品だろう。

 彼女の歌唱は唯一無二である。呟くようでそれはシャウトに近く、シャウトは単に突き抜けてくものではなく立体的な表現空間を生む。それは単純に“歌う”という行為から育まれるスケール感ではなく、彼女の体全体が楽器のように鳴りつつ宇宙に届いていくかのようでもある。今年、デビュー10周年の彼女。区切りの年に相応しい、彼女本来の魅力、そしてさらなる飛躍を期待させる楽曲だと思う。

(小貫信昭)

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