映画「自分の事ばかりで情けなくなるよ」スペシャル企画 – 観客動員数1万人を突破した注目の本映画がDVD化。そこで監督・松居大悟に再びのインタビューを敢行。

映画「自分の事ばかりで情けなくなるよ」スペシャル企画

2012年4月18日にリリースされたクリープハイプのメジャー1stアルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』の初回限定盤DVDに収録されたショート・フィルム「イノチミジカシコイセヨオトメ」と同時に制作されたリード曲「オレンジ」のミュージック・ビデオに端を発した、松居大悟 監督とクリープハイプ 尾崎世界観による有機的なコラボレーションは音楽ファンだけでなく、映画ファンの間でも話題を集め、昨秋には2本の短篇と1本のMV、さらに新作中篇を加えて、青春群像劇「自分の事ばかりで情けなくなるよ」として劇場映画化された。ここまででも充分に画期的ではあるが、渋谷ユーロスペースでの単館上映だった本作は、少しずつ上映館を増やし、全国へと広がっていった。劇場に足しげく通っていた松居監督は、このムーブメントをどう感じているのか。作品DVDのリリースが決まったタイミングで、改めて本作に対する想いを聞いた。

INTERVIEW & TEXT BY 永堀アツオ PHOTOGRAPHY BY 関信行(go relax E more)

 

僕と尾崎がずっと憧れていた世界——映画界にちょっと足を突っ込めた

──今回は、改めて公開後に感じたことをお伺いしたいと思います。まず、公開前の10月17日には、東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門正式出品作品として、グリーンカーペットを歩き、オープニングセレモニーに参加されました。

僕、ああいうのに声がかかったことが初めてだったんですよね……あんまり公式に認められたことがなくて……(笑)。まぁ、そもそもは“あんなの関係ねえ、クソ!”っていう気持ちで作っていたんですけど、やっぱりすごいうれしくて。なにより、映画通の人、クリープハイプから入っていない人に、ちゃんと映画として観てもらえたことがうれしかったんです。全然知らない人が観たときにバンドの宣伝のための音楽映画だと思われたらイヤだなと思ってたんですけど、東京国際映画祭に声をかけていただいたことで、そういう雰囲気がなくなった部分があったし、そのあとの試写会に映画ライターの方が観に来てくださるようにもなった。そういう意味でも広がったなぁというか、音楽とは別の業界である、映画という場所に影響を与えられることができたんじゃないかと思って。僕と尾崎(世界観)がずっと憧れていた世界——僕は演劇をやって、尾崎は音楽をやって、映画に憧れて作ったものが、映画界にちょっと足を突っ込めた感じがして。認知してもらえたなって思えてうれしかったし、もっともっとやりたいとも思いました。

──そして、10月26日には劇場での初日の舞台挨拶がありましたが、ちょっと涙ぐんでましたよね。

あの……僕、泣いたことないんですけど(苦笑)。でも、あの日は出演者みんなが横に並んでいて、しかも、満席で立ち見のお客さんもいらっしゃって。

──お客さんが多すぎて、急遽、隣の劇場も開放して2スクリーンで上映したんですよね。

なんて言うんですかね……そのムーブメント感というか……そのときにね、いろんなことを思い出したんですよ。1年半くらい前に尾崎とふたりで「こういうMVを撮ってさ、無理矢理映画にしてさ、映画にするんだったらどういうヤツ出す?」みたいなことを、フジファブリックがかかっていた下北沢の居酒屋でコソコソ話していたこととか。それが、こんなに多くの人の足を劇場まで運ばせていることに、すごいなと思って。だからと言って、僕らはお客さんに向けて作ろうとして作ったわけではなくて。

単純にやりたいだけでやってきたのに、みんながああして観に来てくれたことで、自分の感覚を受け入れられた気がした

──もともとはクリープハイプが好きだっていう純粋な気持ちから、作りたいものを作っていただけですもんね。

そうなんですよ。ただ単純にやりたいだけでやってきたのに、みんながああして観に来てくれたことで、自分の感覚を受け入れられた気がしたというか。あと、お客さんの目がすごくあったかかったんですよね。そこでいろんなものがこみ上げてきて。ホント、あの日は一日ずっとそわそわしていて。レイトショーなので21時からだったんですけど、14時くらいには渋谷に着いちゃって、“どうしたらいいんだろう”って東急ハンズをウロウロしたり、ルノアールにずっといたりして。そしたら、18時くらいに池松(壮亮)から「落ち着かないからご飯食べましょう」っていう電話がかかってきたから、すぐ合流して。お酒をかなり入れてから劇場に行ったんです。でもなんか、そういうことすらも泣けてきちゃって。

──(笑)じゃあ、池松さんもソワソワしてたんですね。

池松は普段、この映画がどうだこうだっていう話をあんまりしないんですよ。“役者だからやるべきことをやっただけです”っていう感じなのに、あの日は、ユーロスペースまで行く道のりで、「松居さん大丈夫だよ。この映画はいけるよ」ってボソって言ってくれて。それも印象的で、うれしかったんですよね。なんかホントに、そんなことをいろいろ考えてたら、涙が止まらなくなったんですよね(笑)。

──涙で言葉を詰まらせながら、「これは奇跡だ」っておっしゃっていました。“奇跡”という言葉には、どんな想いが込められていました?

自分がやりたい、尾崎がやりたいと思って、クリープの曲が好きで集まってくれた役者とスタッフたちと本当にやりたいだけで作って。それを観たいと思って集まってくれたお客さんがいて、そのお客さんがいっぱいになって、ユーロスペース始まって30年来の快挙になって……それらすべてが、奇跡以外のなにものでもないなと思ったんです。僕、劇団ではやりたいことをやっていたんですけど、それ以外のものはわりと受け身で、発注されたことに頑張って応えようとしてたんです。でも、クリープだけは、自分が好きでやりたいからやらせてもらって、いろんな人が乗ってくれたところから始まっている。自分がやりたいって言って始まったものが、初めてだったんですよ。だから、“俺、この業界にいていいんだ”って感じたというか……今まではどこか申し訳ないなと思いながら、ごまかしごまかしやっていたところもあったので、素直にこの仕事をしていいんだという想いもあって。なんだろう……ホッとしたんですよね。

──自分が好きなものをそのまま出した作品をみんなが受け入れてくれたことに対して?

こういう感じがあたるとか、そういうことばかりを考えなくていいというか。クリープハイプの曲もそうで。彼らがメジャー・デビューしてもまったくぶれなかったのは、もちろん10年くらい続けていたっていうこともあると思うんですけど、自分の歌いたい楽曲しか歌わないし、本当に気になっていることをどういうフィルターを通して歌うかってことで。自分の感覚に素直にやっているなかで、お客さんが増えていったり、CDが売れていったりするのをそばで見ていて、自分はそこに救われたし、そのやり方に憧れもあったんです。

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このモヤモヤした感じを“なぐられた”という言葉で引っ張っていってくれた

──そして、ついに劇場公開がスタートしたわけですが、上映の期間、何度も劇場に足を運んでたんですよね。

呼ばれてもいないのに、半分以上は行ってましたね。単純に、観に来た人の顔を見たいなと思ったんですよ。終わったあとロビーでお客さんを見送っていたんですけど、「本当にいるんですね?」って言われたりして(笑)。お客さんも観終わったばかりはあんまり言葉にならなくて、あとでTwitterとかで感想を見るのが楽しみでした。「せっかく会ったのに、そのときにうまく感想言えなくてごめんなさい」って言ってくれた方もいたけど、僕は“全然それでいいんだ、うまく感情を整理できなくていい”と思ってて。あと、今回、宣伝コピーを考えてくれた人が「心をなぐる106分。」って文句を考えてくれて。僕はこれはいったいどういう感情なんだろうと思いながら作ったんで、このモヤモヤした感じを“なぐられた”という言葉でお客さんを引っ張っていってくれたのもうれしいなと思いました。しかも、そのコピーを考えてくれたのは、僕の大学の同級生なんです。そういう今までお世話になった人たちとタッグを組んで作っていく感じも楽しかったんですよね。

──その後、全国各地での公開が次々に決まっていきました。

一回一回うれしかったですね。ずっとワード検索してましたから。

観る人の中に生き続けるような気がするなぁと思いますね(照笑)

──そして、いよいよDVDとしての発売が決定しました。

尾崎と言ってるんですけど、レンタルビデオ屋さんの棚に並ぶのがすごく楽しみです。僕らはやっぱり映画をレンタルで観ることが多いんで。でも、映像商品だとずっとずっと……あぁ、なんかくさい言葉しか出てこないなぁ……。

──ここは、くさい言葉でお願いします!

観る人の中に生き続けるような気がするなぁと思いますね(照笑)。そして、友達と家で上映会をしてほしいですね。“ここがヤバい”とか言い合ったり、もちろん途中で寝てもいいし。映画館だと観るモードしかないから、しゃべりながら観てもらったら、また見方や感じ方も違ってくるんじゃないかと思うし。“あ!ここにピンサロ嬢がいるんだよ”とか教え合ってもらったりしてもいいなぁ。ちょっと狂ったかのようにいろいろ繋げたんで、“こことここ繋がってるんかい!?”みたいな驚きもあると思うんです。それはわりと自分の趣味みたいなところで、誰にもわからないようなことを細かくやってたりもするんで、そういうところにも気づいてもらえたらいいなと思ってますね。

──1本のMVから始まって、劇場映画化され、DVDになった。改めて本作は、松居監督にとってどんなものになりました?

「オレンジ」を撮ったときは、やりたいからやってただけで、こうなるとはまったく想像してなかったですね。これは尾崎にはまったく言えてないんですけど、僕は、人生が変わったんですよ。価値観も変わったし、自分が作ろうと思ってるものにも気づかされた。僕はたぶん、クリープハイプがなかったら、ずっとコメディを作っていたと思う。それは、悪い意味ではなくて、好きだし、面白いと思ってるから。でも、自分は本当はこういうことを思っているけど、それは作るものとは関係がないよねって思っていたことを、“いいじゃんそのまま出しちゃえよ”って出したものが、ちゃんと作品として観てもらえて、お客さんも入ったということが、自分の中ではかなり大きくて。ヘンに大人になるのもつまらない、自分に正直に作ろうと思えたんです。

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