蓮沼執太フィル ALBUM「時が奏でる | Time plays — and so do we.」ディスクレビュー

時が奏でる | Time plays -- and so do we.

ALBUM

蓮沼執太フィル

時が奏でる | Time plays — and so do we.

B.J.L. AWDR/LR2 蓮沼執太フィル vinylsoyuz

2014.01.15 release

<CD>


デジタルとアナログの限界と可能性、その向こう側。

ラップトップ・ミュージックという響きが一般的リスナーにも浸透してだいぶ経つ。電子の世界で無限に自由に拡がる音楽は、多様な可能性を音楽家にもたらし、あるいはあらたな音楽家を発掘した。それは一方で、アナログ音楽のプリミティブな魅力と美学を再認識させる役割も果たしていたと思う。

蓮沼執太フィルは、言うなれば現代版フィル・ハーモニック・ポップ・オーケストラだ。総勢15名、人力によるアンサンブルを奏でる楽団を主宰する蓮沼執太は、電子音楽家の顔も持つ。興味深いのは、彼が幼少期にエレクトーンに触れていたということ。エレクトーンはざっくばらんに説明すると、ひとりでなんでも作曲・演奏できる電子楽器だ。あらゆる音色を搭載し、外部機器を使えばどんな伴奏も組むことが可能。この仕様から、必然的にプレイヤーは様々な音色の特性に触れ、アンサンブルのバランス感覚を学ぶことになる。もうひとつ興味深い事象として、蓮沼にはソロ活動の音源制作中に、自身のパソコンをクラッシュさせている経験がある。これらのことからシンプルに憶測をすれば、蓮沼はデジタルのパワーと脆弱性のどちらもを体感していると言える。それを踏まえたうえで、彼がフィジカルで鳴らす音楽の貴さも追駆するのは無論の事実ではないか。人力の音色とそれを鳴らすプレイヤーに対する尊敬、そして誰かと共に音楽を愛好する悦び。今作では、それがヒシヒシと伝わってくる。

ボーカル、ラップ、ピアノ、シンセ、ベース、ギター、スチールパン、マリンバ、サックス、ユーフォニアム、フリューゲルホルン、バイオリン、ビオラ、ドラム。蓮沼が作り上げた曲とスコアを、各プレイヤーが自由な発想で解釈し生み出された音色は、新感覚の自由度と一体感、面白さを伴って耳に浸透する。表層でせせらぐ、蓮沼と木下美沙都と環ROYの紡ぐボーカル・アンサンブルが特に素晴らしい。結成から4年をかけてライブで磨き上げられた楽曲の数々は、どれもが強靭な肉体性と軽やかな美しさを保持している。強い個性が集結しながらも、聴くもののあらゆる風景に溶け込む順応性が感じられるのは、やはりコンダクトする蓮沼の手腕の高さであろう。

デジタルとアナログ、どちらがどうということはない。ただ、相互は可逆的な欲求と魅力を持ち、増幅させ合うものでもある。少なくとも今作は、肉体が鳴らす音楽の可能性をまたあらたに提示した。それは結果として、音楽の持つ可能性を広げてくれたとも言える。今はただ、蓮沼執太フィルに感謝と尊敬の拍手を。

(小島双葉)

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