椎名林檎 – 椎名林檎十五周年を記念し、オーチャードホールで行われた“党大会”。聴覚と視覚だけではなく、嗅覚でも楽しませてくれた贅沢なひとときをレポート!

椎名林檎

今年11月に椎名林檎十五周年企画作品となるコラボレーション・ベスト・アルバム『浮き名』とライブ・ベスト・アルバム『蜜月抄』を同時リリースした彼女が、計5日間に渡り東京・Bunkamura オーチャードホールにて“椎名林檎十五周年 党大会 平成二十五年神山町大会”。を開催した。単独ライブとしては2008年にさいたまスーパーアリーナにて開催された十周年記念祭“(生)林檎博’08”以来、5年ぶり。今回、WHAT’s IN? WEBでは最終日の模様をレポートする。

TEXT BY 早川加奈子/PHOTOGRAPHY BY 荒井俊哉

 

果樹園で堪能した、成熟の歌声

なんとも芳醇で、うっとりするほど美しいひとときだった。計5日間開催された“椎名林檎十五周年 党大会 平成二十五年神山町大会”の最終日。共にステージに立つのは、斎藤ネコカルテット、ピアノトリオにハープ、アコーディオンというアンサンブル。会場はクラシックやオペラ、バレエのためのホールとして知られるオーチャードホール。開演前の場内には、エレクトロやノーザンソウルが静かに流れている。

幕が開くと、目の前に赤と白で彩られた鮮やかなステージが現れた。グランドピアノとアコーディオンが鳴り響き出すや、ロング・ドレスの裾をひるがえして椎名林檎が登場。サッシュを肩からかけ、王冠を冠り、「都合のいい身体」を優美に歌い出すその姿は、まさに神山町の女王だ。

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「ようこそ党大会へ。本日はオーチャードホールですので、選りすぐりの首席奏者と共に生楽器でお届けしたいと思います。いつもよりもっと、深~いところでビリビリしていただきたいと思います。ところで、オーチャードってどういう意味かご存じですか?──果樹園です。ぴったりですよね」

ソロ曲やカバー曲の数々が、オール生楽器による演奏で次々とノーブル&ジャジーに生まれ変わっていく。その様子もさることながら、ふくよかでソウルフルな林檎の歌声がとにかく素晴らしかった。「MY FOOLISH HEART」や「旬」での押さえたエモーションは、エラ・フィッツジェラルドやナンシー・ウィルソンのように繊細でドラマチック。みどりん(SOIL&“PIMP”SESSIONSの)の叩くシンプルでソウルフルなビートと、ピアノ×ウッドベースとの絡み合いが絶品だった「浴室」では、エリカ・バドゥばりに喉を震わせる。もはやシンガーとしても、彼女はギターをかき鳴らして歌っていた頃とはまるで別の次元にいるのだということを思い知る。

「カーネーション」「カリソメ乙女」を筆頭に、多くのナンバーが英語詞にアレンジされて歌われていたのも印象的だった。しかもその発音がどれも非常にクリアで美しく、それが歌い手のエゴなどでは決してなく、サウンドに沿った必然的な歌詞としてすんなりと耳に入って溶けていく。しかもスクリーンに日本語詞も投影し、聞き手が楽曲の世界に没頭できる手助けも忘れない。

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胸元と背中が大胆に開いた可憐で官能的なミニ・ドレスに林檎が着替える間、見る度に顔が違う伝説など、巷の噂に自身が答える“噂の真相”なるラジオ風トークが会場内に流された。衝撃だったのが、“極秘出産”の件。女児を授かった事実を党大会まで公にしなかったのは、“新作の宣伝に駆り出す格好にしてしまうような事態を危惧した”のと“お得意様(ファン)に直接伝えたかったから”と回答。会場に祝福の拍手が響き渡る。

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また、「熱愛発覚中」をアンサンブルの生演奏で届けたあとの演出も画期的だった。「党大会って何大会? 甘党大会!」というアナウンスと同時に、なんと甘く濃密なバニラの香りが漂ってきたのだ。脳内でもっとも本能的な部分を刺激する嗅覚まで挑発するなんて!

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椎名林檎の次の一手

「椎名林檎の中の人は本業が作家業。 どうしても書くことを優先してしまいがちですが、演奏家業も細々と続けて参りたいと思います」

そんなアナウンスを証明するように、アンコール1曲目「丸の内サディスティック」では、ロックな林檎を切望しているであろう観客のために、控えめながら観客とのコール&レスポンスも披露。だが、本編の最後、ミラーボールが美しい光の放射線を描く中で披露された「茎」での圧倒的な歌声にも、同性ながら終始見惚れ通しだったその成熟した美しい姿にも、もはや「歌舞伎町の女王」を歌っていた少女の面影はない。

アンコールの2曲目として、最後に披露されたのは……例え絶望の中にいても、かすかな希望を切望せずにはいられない……真木よう子に提供した「幸先坂」だった。

子供が無事に生き延びられたことを祝うお宮参りや七五三などの通過儀礼のように、椎名林檎は5年という節目毎に、驚くべき潔さで次の段階へと進化し続けてきた。2003年のソロから東京事変への転換。2009年のソロ・アルバム・リリース。そして、事変の解散を経ての今回の十五周年。

”椎名林檎”とは、かつての功績や若さにすがることなくその肉体や精神の成長とともに変化していくもの。だとすれば、果たしてこの先、”椎名林檎”はどう変わっていくのだろう? だが、彼女の前では詮索なんて愚かなことなのだ。どの道きっと私たちはまた、椎名林檎の次の一手に翻弄されてしまうに決まっているのだから。

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SETLIST

01. 都合のいい身体
02. IT WAS YOU
03. カーネーション
04. カリソメ乙女
05. MY FOOLISH HEART
06. 浴室
07. 熱愛発覚中
08. 二人ぼっち時間
09. 色恋沙汰
10. いろはにほへと
11. おいしい季節
12. 旬
13. 女の子は誰でも
14. 孤独のあかつき
15. 都会のマナー
16. 今(Present)
17. 月夜の肖像
18. 罪と罰
19. 密偵物語
20. 殺し屋危機一髪
21. 茎
<ENCORE>
22. 丸ノ内サディスティック
23. 幸先坂

PROFILE

シイナリンゴ/1978年生まれ、福岡出身。1998年5月にシングル「幸福論」でメジャー・デビューを果たす。1999年には160万枚のセールスを記録した1stアルバム『無罪モラトリアム』をリリース。2004年から2012年までは亀田誠治らとともに東京事変としても活躍。2013年11月にはデビュー15周年を記念してコラボレーション・ベスト・アルバム『浮き名』とライブ・ベスト・アルバム『蜜月抄』を発表している。

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椎名林檎OFFICIAL WEBSITE

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