supercell ALBUM「ZIGAEXPERIENTIA」ディスクレビュー

ZIGAEXPERIENTIA

ALBUM

supercell

ZIGAEXPERIENTIA

Sony Music Records

2013.11.27 release

初回生産限定盤A <CD+Blu-ray>
初回生産限定盤B <CD+DVD>
通常盤 <CD>


夢から醒め深海魚になっていた僕が本当の自分を探すループ旅

インターネット発の音楽を“ボカロP”というキーワードでひと括りに捉えてしまいがちだが、supercellの場合は、ryoというリーダー/ソング・ライターが率いるロック・バンドと言ったほうが彼の音楽の本質に近いのではないかと思う。

たしかに、’09年にリリースした1stアルバム『supercell feat.初音ミク』は、それまでの2年間にニコ動に投稿していた楽曲をまとめた作品であった。しかし、メジャー・デビュー作となった’11年発売の2ndアルバム『Today Is A Beautiful Day』では、後にソロ・シンガーとしてデビューする「歌ってみた」の歌い手であったガゼルことnagiを迎え、アルバム全編を通したボーカルとして起用。サウンド的にも、打ち込みではなく生のバンド・サウンドが基本となっており、総じて、女性ボーカルのギター・バンドによるポップなロック・アルバムになっていた。

2年半ぶりとなる3枚目のアルバム『ZIGAEXPERIENTIA』でも、サウンドの方向性は変わらず、あくまでバンド・サウンドを基調としながらも、前作よりもギターが突出したアレンジとなっている。新ゲスト・ボーカルに抜擢された“こゑだ”(17歳!)のレイジーでざらついたな歌声も相まって、前作より若々しい苛立ちも抱えたオルタナティブな感覚を感じる。

歌詞についてだが、人気アニメのタイアップ曲が多数収録されているものの、ひとつのストーリーを読み解くこともできる。前作は「終わりへ向かう始まりの歌」で目を閉じて、現在から過去へと、喜怒哀楽に満ちた記憶を遡り、最後の「私へ」で現在に戻ってくるという内容になっていた。最後に目を開くと、目を閉じる前とはまったく違う、希望に満ちた景色が見える! という前向きなムードがあったのだが、今作は似て非なる結末となっている。プロローグの役割も兼ねている1曲目「Journey’s End」は、タイトルどおり、旅の終わりからの始まりを告げる。ここで、前作とは反対に目を開く。今回は記憶の旅ではなく、夢から醒めたあとの冒険である。夢から醒めたはずの“僕”は、深い深い海の底にいる魚となっている。番号で統制される世界に怒りを覚えた“僕”は、本当の自分を探して彷徨うが、やがて絶望し、虚無を感じながらも、どうにか“今、いる”この世界で生きていく希望を見つけようとする……。そういう意味では、いったんはハッピー・エンドであるが、また1曲目に戻ると、実はすべてが夢の話で、夢から醒めるとまた変わらないつらい日々が繰り返されるという、悪夢のようで現実的な、円環的物語となっている。

タイトルの「ZIGAEXPERIENTIA」とは、“自我”と、経験という意味のラテン語“エクスぺリエンティア”を併せた造語だろう。“自分はいったい何者なのか?”という問いかけは、おそらく一生、答えが出ない。また、ふとしたときに同じ命題にぶちあたるはずで、永遠に終わらないスパイラルに陥ったような錯覚ももたらされる。夢の中で不思議の国に迷い込んだアリスが、“私はアリスか?”と自問自答し、作者のルイス・キャロルが“人生は夢にすぎないのか?”という言葉を残したように、現実と認識しているはずの日常の中で、自己の存在を揺さぶられる想いがする。

(永堀アツオ)

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