さよなら、また今度ね ALBUM「P.S.メモリーカード」ディスクレビュー

P.S.メモリーカード

ALBUM

さよなら、また今度ね

P.S.メモリーカード

Ren’dez-vous

2013.09.18 release

<CD>


言葉の力が突き抜けたニューカマー

 最初にマイナス点をちゃんと書いておこう。演奏、そんなにうまくない。アンサンブルだって、ビシっと揃ってるわけじゃない。荒削りと言っていいと思う。基本的にはキーボードの音色と男女コーラスが入ったギター・ロックで“◯◯の要素を取り入れた〜”みたいなわかりやすいフックがあるわけでもない。菅原達也(vo、g、key)の声はかなりグッとくるけど、それも圧倒的にうまいというわけじゃない。歌のピッチも、ところどころズレている。

──って書いてたら、けちょんけちょんにけなしてるみたいになっちゃった。こんなレビュー原稿ありか? でも、要は、そういう“足し算”で語ろうとするとこのバンドの魅力には辿り着けない、ということを言おうと思ってるのだ。

 2011年に結成、ほぼ無名の存在に関わらず“COUNTDOWN JAPAN 12/13”でキャパ6000人のステージを満員にし、2013年1月の初の全国流通盤ミニ・アルバム『菅原達也菊地椋介佐伯香織渋谷悠』を経て、初のフル・アルバムをリリースした4人組バンド。すでに相当の注目と人気を集めている。その最大の理由は、やはり、ぐさぐさと突き刺さってくる歌詞の力なんだと思う。情景をありありと浮かび上がせるような言葉。等身大の内面を綴っていくんじゃなくて、まるで短編小説のような書き方をしていて、それでも彼らの人となりがそこから伝わってくる。ろくでもない男がいて、世間からハミ出した、競争社会でうまくいかないタイプで、そういう人がバンドをやって、ポップの魔法を手に入れる。そういう物語が見て取れる。

 そういうふうに思って聴いているうちに、最初のほうで書いていたマイナス点が全部どうでもよくなるというか、逆に愛おしくなってくるのだ。実はそういうふうにして登場したバンドはたくさんいて、GOING STEADYも、神聖かまってちゃんも、そうだった。最初に彼らのことを知ったときもそういう系譜に連なるバンドだと思ってた。けれど、このアルバムの「輝くサラダ」や「かわいいくまさん」を聴くと、ちょっと違うみたい。荒々しく壊れながら暴走していくロック・バンドのタイプというよりも、カラフルな高揚感のポップを奏でて愛されていく未来が見える。

まずはここがスタート地点。どう化けていくか見ものだ。

(柴 那典)

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