奥田民生 SINGLE「風は西から」ディスクレビュー

風は西から

SINGLE

奥田民生

風は西から

キューンミュージック

2013.09.11 release

通常盤/写真 <CD>
完全生産限定盤 <CD+CD-ROM+DVD>


今、大人が「明日はきっといいぜ」と歌うことの深さについて

 軽やかなメロディと土ボコリが舞うようなギター・ロック、そして心象を描いた歌詞。民生のニュー・シングルは彼の得意とするスタイルがズバッとハマったもので、今回はすべての楽器を自分ひとりで演奏しているという。それでもバンド感が出ているのがベテランの妙味か。しかもこの曲はマツダ(企業広告「Be a driver.」オフィシャルソング)のタイアップ曲であって、車に関連した曲が多い彼のイメージとすんなり重なる。「風は西から強くなっていく」と言う歌詞には、偏西風以上に、彼自身が広島県出身だということを思ってしまう。後半の「心はいま赤いぜ」は、根っからのファンである広島カープの球団カラーをかけているのだろう(ちなみに先程のマツダの本社は広島にあり、カープの筆頭株主だ)。

 そんなわけで最初の段階では彼らしさばかりを感じていたのだが……聴き込んでいくうちに、今度は歌詞のポジティビティのほうが刺さってきた。とはいえそこは民生、肩肘張って“頑張ろうぜ!”と応援するようなノリではない。「笑う人には笑っといてもらおう」「明日はきっといいぜ 未来はきっといいぜ 魂でいこうぜ」といった言葉をサラッと歌っているのが40代後半なりの体温なのかなと、そこにまた、ひと筋縄ではないなと感じた。

 思い出したのは「イージュー★ライダー」だ。民生が30代前半の頃に書いたあの曲は、大人の年齢になっても自由だとか青春について思いながら生きる心模様をナチュラルに歌った名曲だった。ただしあそこで「気を抜いたら ちらりとわいてくる 現実の明日はやぶの中へ」と歌われたような現実の重たさは、「風は西から」ではさほど触れられていない。「イージュー~」から17年が経過した今は、加齢という事実もあるだろうし、世の中に目を向けても不況に代表される社会問題や東日本大震災以降の閉塞感まで含め、現実はひとつも良くなっていない。大人の立場から未来について考えると、その深刻さは大きくなっていると感じることばかりだ。

 多分に逆説的だが、この歌はそうしたことに言及していないからこそ、背後にあるリアルの重たさが感じられる。しかしそれでもあえてこの歌詞を──「明日はきっといいぜ」と歌い切ってしまえるところに、民生というアーティストの超個性があると思う。それは生半可なことではない。
 カップリングの2曲は斉藤和義とのライブ・セッションで、お互いの曲を共に歌い分けている。これがまた聴きごたえ十分。ここには、素敵な大人の歌い手同士の邂逅がある。

(青木優)

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