クリープハイプ ALBUM「吹き零れる程のI、哀、愛」ディスクレビュー

吹き零れる程のI、哀、愛

ALBUM

クリープハイプ

吹き零れる程のI、哀、愛

Getting Better/ビクターエンタテインメント

2013.07.24 release

初回限定盤 <CD+DVD>
通常盤 <CD>


“クリープハイプ以降”の始まり

 ついに完成したニュー・アルバム。そこには“吹き零れる程のI、哀、愛”という、尾崎世界観が紡ぐ歌の本質が凝縮されたタイトルが冠されている。前作『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』から1年3ヵ月。貪欲に結果を欲し、実際に勝ち続けたここまでの展開は、本当に見事だった。

 バンド史上初のシングルにして、“音楽をやめるそのとき”の夢想を、歌姫との別れのドラマとして描いた「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」。その「おやすみ泣き声〜」がオリコンチャート7位を記録したという事実と、バンドが売れたことを嘆く女性の物語を相対化し、どこまでもヒリヒリとした感触を湛えた最高にキャッチーな楽曲に昇華した「社会の窓」。資生堂「アネッサ 2013」のCMソングであり、女性目線の濃厚なラブ・ソングに耳にこびりつくようなサビを付け、お茶の間に忘れがたき旋律を侵入させた「憂、燦々」(CM視点で捉えると“YOU SUN SUN”に変換できる)。リード・シングルとしてリリースしたこの3曲の存在は、本作を語るうえで、とてつもなく大きい。

 1曲目、「ラブホテル」。「夏のせい」という魔法の言葉をエクスキューズに、なまぬるい心と身体を重ねようとする男女の悲哀が、切迫したユーモアを持って描かれている。そんな、いくばくかの背徳感さえ覚える歌が、ちょっと信じられないくらい光量の強いポップ・サウンドを纏って解き放たれている。音楽を使い捨てする存在に中指を立て、不敵な速さで疾走するロックンロール「あ」もたまらない。以降、音楽的な奥行きが増した多彩なアレンジメントとバンド・アンサンブルの充実を示しながら、尾崎世界観というソング・ライターの核心がディープに刻まれたラストのスロー・ナンバー「傷つける」へ──。

 全12曲(初回盤にはボーナストラック「自分の事ばかりで情けなくなるよ」が収録される)にわたって溢れ出す、“吹き零れる程のI、哀、愛”。バンド・シーンに“クリープハイプ以降”という概念が生まれることさえ予感させる、文句なしの傑作である。

(三宅正一)

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

M-ON! MUSICの最新情報をお届けします。

この記事に関するキーワード

この記事を書いた人