クリープハイプ – 長谷川カオナシ(b)のI、哀、愛 – メジャー2ndフル・アルバム『吹き零れる程のI、哀、愛』について、ディープなインタビューを敢行。4週にわたり公開するスペシャル企画。

クリープハイプ - 長谷川カオナシ(b)のI、哀、愛

そもそもアーティスト名からして不可思議な違和感を漂わせているし、さらにその風姿やステージ上の佇まいを確認すれば、誰もが“こいつはただ者じゃない”と感じるだろう。そう、長谷川カオナシは4人のメンバーの中で最もアーティスティックな男である。アレンジの主導権を握り、第2のソングライターでもある謎多き男の実像に触れてほしい。

INTERVIEW & TEXT BY 三宅正一 PHOTOGRAPHY BY 関信行(go relax E more)

インパクトのある名前で活動したいから、DQNネームを付けようと思った

──カオナシくんの音楽的な原体験はどういうものだったんですか?
小学生のときにピアノとバイオリンを習っていまして。それはたいして身にならなかったんですけど、音感という意味では今すごく助かってますね。ベースのフレーズを付けるときもドレミファで考えるし。自分なりの音楽的な理論の軸になっています。
──ちなみに“カオナシ”という名前は自分で付けたの?
自分で付けました。高校時代に組んだ3ピース・バンドでずっとベースをやっていたんですけど、それを抜けたのが2009年の3月で。そこからひとりで音楽をやろうと思って。そのときに、どうせなら本名じゃつまらないし、何かインパクトのある名前で活動したいから、自分にDQNネームを付けようと思ったんです。だから、“君の音楽の世界観はいいね”って言われたらから名前に“世界観”って付けたみたいな、素敵なエピソードはないです(笑)。
──“カオナシ”がDQNネームかどうかはわからないけど(笑)、インパクトのあるネーミングにしようと思ったわけだ。
はい。“カオナシ”って自分にピッタリだなと思って。宮崎駿監督が作ったあのモンスターが、ものを言えない若者の象徴みたいだなと思って。当時、私が書いていた曲もそういう感じがあったので、“カオナシ”でいいやって。
──ひとりになったときに初めて自分で曲を書いて、歌おうと思ったんですか?
そうですね。
──どういう曲を歌いたいと思ったの?
まあ、率直に言うと、尾崎さんみたいな感じですかね(笑)。前のバンドをやっているときにクリープハイプの存在を知って、すごく好きになって。最初は夜の公園でギターを弾きながら尾崎さんの曲を歌ったりしていたんです。
──すげえな。そんなに好きだったんだ。
好きでしたね。(キーが)高くて歌えなかったけど(苦笑)。

尾崎さんの歌は、最初にライブで聴いたときから歌詞が入ってきて

──カオナシくんが最初に触れたクリープハイプはどんな状態だったんですか?
編成は3ピースで、インディーズで『ねがいり』(2006年8月発表)を出したあとだったかな? 共通の知り合いの企画イベントに(クリープハイプが)出ていて。代々木にあるlaboというライブハウスでした。初めて観た瞬間にヤバいなと思いましたね。
──どんなところに強烈に惹かれたんですか?
そのときから「チロルとポルノ」をやっていたんですけど……それまで私が聴いてきた歌は、歌詞はどうでもいいと思っていたんですよ。世に流れているポップ・ソングの歌詞は、歌うために言葉が付けられているくらいの感じに思っていて。だから、歌詞に重きを置いて音楽を聴いていなかったんですね。姉がBUMP OF CHICKENが好きで、“バンプの歌詞はいいよ”って薦められて、たしかにいいなと思ったんですけど、歌詞カードを読まないと言葉がちゃんと聴こえないなと思ったんですね。これはべつにディスっているわけではなくて……でも、尾崎さんの歌は、最初にライブで聴いたときから歌詞が入ってきて。これはすごいなと。あの声質もインパクトあったし。
──初見で歌の物語や情景を思い浮かべることができた。
そういうことですね。あとは、バンプとクリープハイプの間にGOING STEADYにも触れたんですけど、ゴイステも衝撃的でしたね。
──峯田(和伸)氏の言葉もストレートで強いですね。
そうですね。これも語弊があるかもしれないですけど、ゴイステを聴いて“音楽はヘタでもいい場合があるんだ”って思ったんです。あとは、みんなで歌えるわかりやすさが素晴らしいなって。そこからクリープの歌を生で触れて、決定的に心を動かされたというか。
──おのずと自分が歌うってなったときも尾崎くんのような歌を書きたいと思ったと。
そうですね。

もちろんうれしかったので、“ありがとうございます、望むところです”と

──そこからクリープハイプのサポート・メンバーになるまではどういう流れがあったの?
前のバンドをやめた年の6月から、“長谷川カオナシ”と名乗り始めて、ひとりでライブハウスに出るようになったんですね。それと同時期に尾崎さんから電話がかかってきて。“サポートでベースを弾いてくれないか?”って。
──“まさか!”という感じだったでしょう?
そうですね。でも、もちろんうれしかったので、“ありがとうございます、望むところです”という返事をして。なので、私がクリープハイプのベースのサポートを始めたタイミングとソロで歌い始めたタイミングはほとんど同じだったんです。
──その頃には尾崎くんとも結構交流があったんですか?
いや、実はそこまでなかったんですよ。一方的にライブを観に行ったりはしていて、打ち上げにお邪魔していっぱい人がいる中で話したりとかはあったんですけど。初めてちゃんとしゃべったのは、サポートの誘いの電話をもらって、音源を渡したいからということで、ふたりでファミレスに行ったときですね。
──そのときに尾崎くんの歌に対する憧憬の想いは伝えたんですか?
えっと……そこまでちゃんとは伝えてないですけど、尾崎さんは気づいていたと思います。自分のことを好きだと思っている人をメンバーに誘っていたし。ただ、後々のほうがより伝わっていったと思いますけどね。
──今のメンバー4人がそろったときのことを覚えてますか?
最初にスタジオに入ったときのことはよく覚えています。単純にそのときの私は3ヵ月ぶりくらいにスタジオで大きな音を出したので、“これ最高じゃん!”って思って。そのときは「蜂蜜と風呂場」をやったんですけど。でも、あとからみんなの話を聞いたら、最初は全然良くなかったみたいですね(笑)。私は音を出せるだけでうれしくて。
──小川くんと小泉くんにはどんなことを感じましたか?
すごくアクの強いプレイヤーだなと。ふたりとも初めて会うタイプでしたね。尾崎さんは声のアクが強いですけど、あのふたりは音のアクが強いなと思います。尾崎さんはすごいメンバーを集めたなって。
──厄介だなとも思った?
やっていくなかで厄介だなと思うことはありましたけど、同時にそれはこのバンドの武器になると思うようになっていきましたね。幸慈さんは私が絶対思いつかないようなフレーズを鳴らすし、拓さんもキックを一発鳴らしただけで拓さんのそれとわかるし。それってすごいことですよね。

作品が完成したときはいつも始まりだなと思う。今回は特に

──今はそれを調和することの喜びを感じているし。
そうですね。その光栄さと……。
──それはいつくらいから感じるようになりましたか?
ホントに実感を伴ってきたのは、シングル3枚を録り終えたくらいからかもしれないですね。つまり、このアルバムのレコーディング時ですよね。だから今回のレコーディングはすごく楽しかったんだと思います。そのいい状態がちょっと恐ろしくもありますけどね。インディーズでずっと売れないことをやってきたから、このいい状態を幻にしちゃいけないなって。
──でも、それを確かなものにするための最初の一歩としてのアルバムでもありますよね。
うん、まさにそうだと思います。作品が完成したときはいつも始まりだなと思うんですけど、今回は特にそう思いますね。
──カオナシくんはインディーズ時代もいつかこのバンドは日の目を浴びると信じていましたか?
最初にライブを観たときから、少なくともこの男(尾崎)はそうだろうなとは思ってましたね。
──話は前後するけど、カオナシくんの中では、ソロ活動とクリープハイプのサポートを並行してやりたいと思っていたんですか?
そうですね。最初はクリープハイプの正式メンバーになれるとは思っていなかったので。だから、正式メンバーになるタイミングでは考えましたね。当初はひとりで表現する場所もあればいいなと思っていたので。
──ただ、クリープハイプで自分が作曲して歌うようになるのも想像してなかったでしょう?
そうですね。思いもしませんでした。ただ、自分のことを認めてくれている人(尾崎)が正式メンバーになることを求めているなら、それにこたえないといけないと思ったんです。
──でも、それとソロで歌いたいという欲求は別問題ではありますよね。
そうですね。尾崎さんも最近、“これはバンドではできないと思う曲を書く感覚を知った”って言ってたんですけど。私もそういうところはありますね。自分の歌を100パーセント、クリープハイプで表現できることはないと思います。それは尾崎さんや僕だけじゃなくてふたり(小川と小泉)もそうだと思います。
──そのうえでひとつの音楽を共有するのがバンドであるわけで。
そうですね。

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カオナシなのに目玉とはこれいかに、なんですけど

──尾崎曲がバンドの中心にある中で、長谷川カオナシ曲が果たすべきことってなんだと思いますか?
それはお客さんに聞いてみたいですね。ただ、単純に尾崎さんが書かないことを書こうと思ってます。なおかつ、アルバム1枚を通して聴いたときに私の曲も調和してることが必須ですよね。ちょうど昨日思ったことがあって。私の曲って目玉みたいだなって。
──ん? それはどういう意味ですか?
“カオナシの曲には意思がない”って人に言われたことがあって。風が吹いたら飛んでしまうような。カオナシなのに目玉とはこれいかに、なんですけど。
──とんちみたいだね(笑)。
とんちですね(笑)。でも、たしかに自分の歌詞を読んでみて……私がどう感じたかというよりも、私がどう見たかってことを書いてるなと思って。そこが私の曲と尾崎さんの曲の決定的な違いだと思うんですけど。
──今回の「かえるの唄」もそうですけど、カオナシくんの曲は童謡的な趣のあるものが多いですよね。
童謡的というのはつねに意識してますね。というよりも、最終的には童謡を作りたいと思っているんです。子供が理解できて楽しめる曲がいちばんパワーがあるし、キャッチーだと思いますから。時にトラウマにさえなったりもするし。
──今、カオナシくんが思っているクリープハイプの最大の強みってどんなところだと思いますか?
迎合しようとしてもできないところですかね。
──それは音楽シーンに?
そうですね、音楽シーンにおいてですかね。メンバーみんな普遍的なことをやってるつもりではいると思うんです。でも、小川さんなんかすごくおかしいと思うんですけど。
──変わったプレイヤーですよね。
うん、変わってます。本人が変わっていると気づいてないこともおかしいんですけど(笑)。
──そうなんだよね(笑)。
でも、おかしいところさえも当たり前のようになれば……具体的なバンド名を出すとダサいですけど……ザ・ビートルズみたいになれるんじゃないかなって。まあ、ザ・ビートルズは偉大すぎますけど、自分たちの耳と目がもっとしっかりすれば、どんどんカッコよくなれるバンドだと思います。長生きもすると思うし。
──何か実現させたいことはある?
とにかく長くクリープハイプを続けたいですね。しかもちゃんとカッコよく存在し続けたいです。

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