ircle MINI ALBUM「さよならリリー」ディスクレビュー

さよならリリー

MINI ALBUM

ircle

さよならリリー

YAMANOTE RECORDS

2013.07.10 release

<CD>


“欠けたる者たち”が打ち鳴らす、ヒリヒリした叙情

 今年いよいよブレイクか? との呼び声も高い、大分県別府市出身の4人組ギター・バンド、ircle(アークル)。昨年11月にタワーレコード限定でリリースしたシングル「夜明けのテーマ」も好評という彼らが、満を持して送り出す7曲入りのミニ・アルバム『さよならリリー』。それは、年間約100本というライブに裏打ちされた持ち前の細やかなアンサンブルと、そこから時折ハミ出さずにはいられないエモーションのブレンド具合が、実に特徴的な一枚となっているのだった。

 ソリッドで疾走感溢れるリード曲「バタフライ」や、ツイン・ギターの絡みがダンサブルに響く「桃源郷 ex.ニヒルガール」など、新世代ギター・バンドとしての“矜持”を随所に感じさせる楽曲たち。それらアップ・テンポで変則的な楽曲の印象も鮮烈だが、その一方で、ゆったりとしたリズムに乗せてロマンチックな感傷を歌い上げる「嘘つき少年より」など、ナイーブな感性や叙情を感じさせる楽曲も収められている本作。細やかなアンサンブルの中心に位置する河内健悟(vo、g)のボーカルは、ときにぶっきらぼうで、ときにエモーショナルに打ち震えるような、独特の“揺らぎ”を湛えている。“全てを忘れたら 走れ!”(「バタフライ」)、“溶かしてよ プラスチックのプライドなんて”(「ミニブル」)など、曲タイトルをリフレインするのではなく、その感情の高ぶりをそのまま反映するように変化していく歌詞のフレーズも、何やら印象的である。

 ちなみに。“ircle(アークル)”という耳慣れない響きを持ったバンド名は、閉じられた“完全性”を象徴する“円(circle)”というワードから、その頭文字である“c”を外したものであるという。型を崩すことによって、“今ある世界に新しい風穴をあける”──そんな4人の思いが込められているというバンド名。しかし、本作をひととおり聴いたあと、こんなふうに思った。“不完全”であることを自覚しているがゆえに何かを追い求めて止まない、バンドとしての駆動力。あるいは、“欠けたる者”としてのメンタリティを象徴するワードとしての“ircle”。激しくも繊細なサウンドの中に、時折顔を覗かせるヒリヒリした叙情性、そして何よりも『さよならリリー』というタイトルが打ち放つ、胸を押しつぶすようなセンチメントは、そんな彼らのバンドとしての指向性を、何よりも表しているように思えた。

(麦倉正樹)

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