赤い公園 SINGLE「今更/交信/さよならは言わない」ディスクレビュー

今更/交信/さよならは言わない

SINGLE

赤い公園

今更/交信/さよならは言わない

EMI Records Japan

2013.07.03 release

初回限定盤 <CD+DVD>
通常盤 <CD>


そこに響くのは初めての景色。経験のない胸の高鳴り

 新しい何かが生れるときは、一瞬、それまでの秩序や情緒が否定されたかのような気分になる。実は、僕が初めて“赤い公園”の音楽を聴いたときがそうだった。そこに鳴っていたのは自分が慣れ親しんできた楽曲の構成法とは違ったものだったのだ。でもすぐに気づいた。そんな比較など何も意味がない。“これまでのガ-ルズ・バンドとはまったく違った……”とかっていう前置きもいらない。ただひたすら、目の前の作品と対峙すればそれでいい、と。

 音楽とは時間の芸術であり、彼女たちは要するに、臨機応変な“時間の使い手”なのだろう。例えば「今更」。この曲のイントロダクションは、Aメロへのスム-スなお膳立てではなく、私たちは一瞬、ポ-ンと(ちょっと心細い)コ-ド感の中に放り込まれる。そして聴こえてくる(歌詞という名の“音楽における絶対的な意味性”)をまとったボ-カル・トラックとの相乗効果を味わう。それは個人的感想では、本谷有希子の小説の中の刹那にも似たものに思う。そこにはもちろん希望が。この曲は“何を今更”と歌っているのではなく、“今更ながらに”に踏ん張ろうとする歌、だと、僕は勝手に受け取ったのだが……。

「交信」は、宇宙の秩序をつかさどる整数を発見してしまった人が弾いているようなミニマルなピアノの循環が印象的な楽曲である。そして聴き進むと、どんどんイマジネ-ションが陣地を広げていく。知覚の奥のさらなる知覚が拓く。聴こえない音まで聴こえてきて、見えない色彩まで見えてくる感覚がある。それはそれは実に甘美である。モ-ルス信号を表すかのようなスキャットはこの楽曲が「交信」というタイトルであることを重ね書きする。ティ-ンが大人には知られず秘密を持ち、それを仲間と共有する歌詞の世界観は正に“ロケンロ-ルの伝統“”とも言えるかもしれない。曲調は決して、シェキナベイベェ~、とは真逆だが。名曲だぜよ。

 最後は小田和正のバラ-ドのカバ-である「さよならは言わない」だ。原曲よりもバンド・アレンジに仕上がっている。意外とも思える選曲だが、そういうことは聴き終わって判断すればいい。聴き終わって言うなら、実に歌詞が“入ってくる”仕上がりとなっている。“こころは 今も”の声を目一杯張るところも到達距離充分である。

(小貫信昭)

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