黒沼英之 – つかの間のファンタジーを届けたい。シンガー・ソングライター黒沼英之の自己紹介的メジャー1stミニ・アルバム『instant fantasy』が完成!

黒沼英之

長く愛されるポップスというのは、しっかりした演じ手の説得力がありつつも、聴き手が感情移入できる間口がある、微妙なバランスの上に成り立っているのものだと思う。おそらく、真のポップスに必要なものは、新しさや刺激よりも、聴き手が自分の姿をそこに投影できる、演じ手の気持ちの持ち具合=スタンスにあるのではないだろうか? ミニ・アルバム『instant fantasy』でメジャー・デビューを果たした黒沼英之は、聴き手と演じ手がきちんと距離を取ったポップスの在り方を体現する、24歳のシンガー・ソングライターだ。僕は、闇雲に感情をぶつけることのない、彼のスタンスに共感できるし、それは、心地よい音楽に昇華されて僕らの生活に入り込み、日常レベルのリアルな夢を見せてくれる。現実からふわりと心を浮き上がらせてくれる、魔法のような音楽を生み出す彼に、音楽との関係性、関わり方について聞いた。

INTERVIEW & TEXT BY 永堀アツオ

自分が自分でいてもいいんだなって思えた瞬間でもあった

──メジャー・デビュー・ミニ・アルバム『instant fantasy』を聴かせていただきました。全7曲中6曲に“抱きしめる”という言葉が出てきますよね。

ホントだ!? 今、言われるまで気づきませんでした。

──だから、僕は、アルバムのタイトルを“抱きしめたい”にしてもいいと思ったんだけど、ご自身としては、どうしてそんなに触れ合うことを歌っていると思います?

なんででしょうね……人と人が触れ合うことで、言葉以上の愛情が伝わる瞬間があるような気がしてて。そういう部分の大切さとか、逆に言うと、残酷さを意識してるのかもしれないですね。……あとは……触れ合うことがそんなに得意ではないぶん、もしかしたら祈りみたいなものが入ってるのかもしれないです。

──“触れ合うことが得意ではない”というのは?

僕は元々、人とのコミュニケーションにコンプレックスがあって。うまくいかないな〜っていうことをつねに感じてたんですよね。音楽を始めるまでは、人の目を気にしすぎて、うまいことやっちゃうというか、いい人ぶっちゃう自分にズレを感じていて。それが、曲を作る原動力になっていたというか。話したり、言葉にしきれない、はみ出した想いが曲になっていくっていう感じがあったんです。しかも、音楽が自分にとってのコミュニケーションの材料にもなってて。初めて曲を作って、人に聴いてもらって、いいねって言ってもらったときに、閉塞感のあった中から、外界と繋がれたっていう瞬間に幸せを感じたし、外部との接触ができる活路が見いだされたことが、すごくうれしくて。それは、なんというか、自分にちょっと輪郭ができるというか、自分が自分でいてもいいんだなって思えた瞬間でもあったんですね。

もっと知りたいって思うことで、生きる活力が湧いた

──その瞬間に向かう前に、音楽との最初の出会いを聞いてもいいですか?

小さい頃から音楽は好きだったんですけど、いちばん衝撃を受けたのは、宇多田ヒカルさんなんですよね。小学校5年生のときに『First Love』が大ヒットしてて。当時、僕は何に不自由があるというわけではないんだけど、窮屈というか、所在ない感じがあって。でも、それがとっても贅沢な悩みだっていうことも自覚していたので、外に出すこともできず、すごく悶々としていたんです。そんなときに、宇多田さんの声を聴いて、周波数が合ったというか。“この感じ、すごくわかる!”って、ピンときて、救われた気がしたんです。

──その“所在ない”、モヤモヤ感はどこから生まれてきたものなの?

(家庭的に)恵まれた環境にはいたと思うんです。でも、ほかの誰でもなく、自分がそこにいるべきだっていう感じがしなくて。その輪郭がない感じがすごく不安というか、自分の存在自体がぼやぼやっとしてることが、すごく怖かったんですよね。そういう、所在のない閉塞感を感じていたときに、宇多田さんに出会って、すごく安心して。宇多田さんの新譜を待ってワクワクするだけで、毎日が生きやすくなったり、楽しくなったりしたし、ラジオや日記をとおして彼女の考え方を聞くことで、人としてもっと知りたいって思うことで、生きる活力が湧いたんですね。僕にとっては、この人は信頼できる、この人がいたら安心だなって思える存在だったんです。

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