土岐麻子 ALBUM「HEARTBREAKIN’」ディスクレビュー

HEARTBREAKIN'

ALBUM

土岐麻子

HEARTBREAKIN’

rhythm zone

2013.06.12 release

<CD+DVD> 写真
<CD>


安定のポップ・シンガーが初めて見せた人生のリアル

 土岐麻子の歌で不安な気持ちや孤独を感じたのはこのアルバムが初めてかもしれない。もちろん、前向きでおしゃれで、新しいことにも貪欲にアプローチするポップ・ミュージシャンとしての矜持を携えたまま、ついに人間・土岐麻子に出会えた気がするのだ。

 生まれも育ちも東京の彼女が、憧れも悔しさも抱えてこの街で生活を続けているリアリティを真夜中のドライブをスクリーンに投影させたような「トーキョー・ドライブ」、朝がくるたび話すことがない恋人たちの、ひとりよりふたりの孤独を描く「heartbreak」、恋のさなかにひとりで東京を離れ、さして遠くない海の近くに旅する女性のいじらしいような、少し狡いような様子を歌う「私の恋と東京」(これは大江千里が主な作詞を担当)。生々しくないぶん、より冷ややかな悲しみに浸されるなか、自作詞ではなく女の子全般に、“あなたはもっと強くて賢いはず”と、英語詞で歌われる「Girls(You are so special)は、古き良きアメリカのオーソドックスなサントラの如きアレンジも手伝い(作曲はゲントウキの田中潤)、それまでの緊張が決壊し、思わず涙が溢れた。

 別にこのアルバムがトラジディックなワケではない。「heartbreak」の作曲を手がけたTomi Yoとはお互いにToro Y Moiにハマっていたことも手伝いエレクトロな浮遊感が心地よいし、伊澤一葉が作曲を手がけた「読唇術」は、ニューウェイヴ〜ソフト目なマスロック・テイストがクールでかっこいい。ちなみにこの曲で男女の掛け合い調の歌詞に合わせて参加している男性コーラスを担当している謎の人物Koki Osato、アルファベットを並び替えると「あ、あの人か!」とわかる仕組み。音楽的なトライや遊び心を滑りこませながら、嘘偽りのない彼女自身の恋愛や人生観、人との繋がりを描いているからこそ、シンガーとして揺るぎない存在感を持つ土岐麻子という人が、より信頼できる。そして何よりアルバムの1曲目とラストは彼女が敬愛するEPO作曲による「Awakening」と「Rendez-vous in’58」がサンドしているのがいい。コード進行やビート感そのものが楽曲を前向きなものにしてしまうEPOの曲作りの普遍性がアルバム全体のテーマである、「こわれたっていいじゃない」——心が動くこと、それは生きている証拠、に風通しのいい出口を作っているのだ。ソロ10年目。確実に今までより気になる存在になったことは間違いない。

(石角友香)

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