ピロカルピン ALBUM「太陽と月のオアシス」ディスクレビュー

太陽と月のオアシス

ALBUM

ピロカルピン

太陽と月のオアシス

ユニバーサルJ

2013.06.05 release

初回限定盤/写真 <CD+DVD>
通常盤 <CD>


遅咲きバンドが初のフル・アルバムで見せる、本気の決意

 早くも違う方向に舵を切ってきた。それには決意めいたものすら感じる。

 ピロカルピンはボーカル&ギターの松木智恵子のファンタジックな歌の世界を中心としたギター・バンドだ。結成からは結構な年数が経っていて、当初は彼女とギターの岡田慎二郎以外のメンバーが固定できず、インディー時代は苦戦を続けてきた。演奏面で安定したパワーを見せられるようになってきたのは現布陣になったこの数年のこと。こうして機が熟した末の去年、メジャー・デビューを果たしている。

 さて、このバンドの大きな特徴は、何もかもが微妙にひと筋縄ではないところだ。メンバーたちは主にUK寄りのギター・ロックがルーツと言うが、その表現の仕方が決してストレートではないのである。サウンドにはいろいろなアイデアや隠し技がさりげなく仕込まれ、メロディは安易にカタルシスを求めず、歌詞には抽象性や幻想感がまぶされている。何かと含みが多いのだ。そうしたヒネリのサジ加減と、松木の歌の透明感。これがいい塩梅で混ざっているのがピロカルピンの個性なのである。そして去年以降は、そんな4人の個性を目いっぱい展開した『蜃気楼』、過去の曲を今のメンバーでリメイクもした『まぼろしアンソロジー』で存在感を徐々に示してきたところだ。

 ところが今年。先行シングル「ロックスターと魔法のランプ」は意外だった。というのは、ピロカルピンなのにあまりにストレートでわかりやすいギター・ロックだったからだ。そこにはどうやらリスナー層をもっと開拓したいというメンバーの意志があったようだ。そして初のフル・アルバムとなる本作で、その傾向はさらにくっきりしている。今回はダイレクトで、じつに通りのいい、UKマナーのギター・ロックが鳴っているのだ。放っといてもナチュラル・シュートを投げまくってた、トリッキーなピロカルピンは、ここにはいない。その意味では、若干肩すかしの感もあったりする。

 ただ、聴くほどに感じるのは、そうした直接的な音楽表現が、総合的には松木の歌のリリシズムを明快に露わにしているということである。このアルバムでの彼女の言葉の多くは、わからないことが多いなかでも新しい世界に歩み出していく感情を綴っていて、それは先ほどまで書いてきたバンド全体のモードと符合している。そもそもクセの強いアレンジを重ねながら自分たちを鍛えてきた4人だけに、それがストレートになったぶん、音の文体は太くなっているのだ。だから松木の歌がいっそう映えて響いてくる。

 遅咲きバンドの本気の決意。その行く先、見届けたいと思う。

(青木 優)

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

M-ON! MUSICの最新情報をお届けします。

この記事に関するキーワード

この記事を書いた人