秦 基博 SINGLE「言ノ葉」ディスクレビュー

言ノ葉

SINGLE

秦 基博

言ノ葉

Augusta Records/Ariola Japan

2013.05.29 release

<CD>


映画を意識しながらも独立した、もうひとつの物語

 柔らかく滲むような景色を描き出す、イントロで鳴るアナログ・シンセの音色。ウェットになりすぎず、優しく琴線に浸透してくるようなその音色とフレーズに、思わずフッと心をもっていかれる。雨音のテンポにも似たピアノのリズムに乗ってくる“天気図”という最初に運ばれた言葉で、イマジネーションがかき立てられ、それがスーッと深まっていく。そしてそこから広がっていく、とても映像的なミュージック・スケープ——それは、音の色と言葉の肌触り、あらたな鮮やかさを放つ歌声が織り成していく、“僕”と“あなた”の切なくもあたたかな物語。無情とも表現される“雨”をモチーフにしてはいるが、「言ノ葉」という作品は、人の心と心を繋ぐ“願い”と“希望”が込められた歌、なのだ。この楽曲は映画『言の葉の庭』のイメージ・ソングとしての立ち位置がひとつあるため、映画の世界観を踏まえたうえでの制作が成されてはいるが、多くの人が抱くであろう“思い”がリアリティをもって紡がれているので、ここで感じられる普遍的は秦が生み出した楽曲だからこそのもの、と言っていいだろう。

 このシングル盤には表題曲である「言ノ葉」以外に3曲が収められているのだが、実は「言の葉の庭」のエンディング・テーマとなっているのはラストに収録されている大江千里のカバー「Rain」のロング・バージョン。ややファンキーなにおいのする(当時からすると)スタイリッシュなサウンドを、乾いたバンド・サウンドに生まれ変わらせ(この形は2曲目に収録)、さらにストリングスを加えて壮大なアレンジメントで仕上げたのが「Rain(Long Ver.)」なのだけれど、こちらの作品は映画館で触れることもぜひお薦めしたい。エンディング・テーマとうたわれてはいるが、ストーリーの最も劇的なシーンと関わっているので、その相乗効果を体感することでよりその魅力と意義を感じられるはずだから。また、冨田ラボが秦の歌声を尊重しながらも斬新なスタイルでリミックスを施した「Girl」の実験性と、聴き込むほどに新しい音に聴こえてくるような音世界の中毒性も非常に楽しい。

(竹内美保)

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