
ALBUM
フェイP
恋セヨ! Sweet Girls
ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント
2013.05.29 release
<CD>
“甘酸っぱい初恋感”に彩られた極上のポップス作品
一口に“ボカロ”や“ボカロ・ムーブメント”と言ったって、それは特定の音楽ジャンルやサウンドの志向性を指すわけでもなければ、特定のファンや支持者の団塊を指すものでもない。そんな当たり前のことを理解してくれない頭カチコチの人たちに、ぜひお届けしたいのがこのフェイPである。とはいえ、supercellやlivetune、DECO27*、米津玄師のような超メジャー級の活躍を繰り広げるボカロ・ムーブメント出身の有名クリエイターたちと比べると、フェイPの知名度は少々落ちるかもしれない。しかしながら、フェイPが生み出してきた綺羅星のごときポップスの名曲たちは、聴いているだけであたり前に過ぎ去ってしまう日常をカラフルな色で華やかに彩り、まるで幸福なラブ・ファンタジーの世界へとダイブするようなポップネスを満々と湛えている。彼の存在こそ、“ボカロ”というカルチャーが内包する“いくら汲めども尽きない才能の泉”を象徴するもので、こんな優秀なサウンド・クリエイターがゾクゾクと現れるこのムーブメントの底知れない魅力と可能性を物語っていると思う。
フェイPがニコニコ動画に初めて動画を投稿した日から5年が経とうとしているが、楽曲は投稿ごとに芳醇さを増し、ソティスフィケイトされてきた。特にアレンジメントの技術はグングン更新され、ブラスなどのオーケストレーションと絶妙なアンサンブルを聴かせている。本作はそんなフェイPのメジャー・デビュー・アルバムということで、これまでの活動を総括するように人気曲もしっかりと収録しつつ、書き下ろしの新曲で最新にアップデートされたアレンジメントで精妙なアンサンブルを聴かせながら、アルバムとしてのトータリティーを尊重するためにインスト曲で“はじまり”と“終わり”を演出している。アルバムとしての表現を尊重した、コンセプチュアルな作品と言えるだろう。そのコンセプトとは何かと言うと、センチメンタルでノスタルジックな“甘酸っぱい恋心”だ。アルバム全体から漂うこの初恋感は、ちょっと尋常ではない。ある意味“渋谷系”の影響下にあるポップ・センスであり歌詞ではあるのだが、ボカロたちの愛らしく瑞々しい歌声がさらにその“甘さ”を濃厚に引き出しているのが印象的。まるで質の良いポップスをお腹いっぱい味わえる、特大のストロベリーケーキのような作品なのだが、後味はどこか切なくほろ苦い。フェイP、やはりただ者ではない。
(冨田明宏)