椎名林檎 SINGLE「いろはにほへと/孤独のあかつき」ディスクレビュー

いろはにほへと/孤独のあかつき

SINGLE

椎名林檎

いろはにほへと/孤独のあかつき

EMIミュージック・ジャパン

2013.05.27 release

<CD>


バンド解散後に放つシングル、その感情が向かう先は?

 見事なシングルである。

 「いろはにほへと」は、ちょっとレトロで、しかも和風の匂いが鮮やかだ。伊澤一葉のチェンバロと斎藤ネコによるストリングス隊の音色が強いインパクトを放つ曲で、そうしたハイ・ブロウなサウンドを従えた椎名は、色彩、それに生命をモチーフにした言葉を歌謡曲的なメロディで綴っていく。そのキモは中盤の“気高いあなたもこの大自然の一端ね”というフレーズにあるのではないだろうか。フジテレビ系ドラマの主題歌で、彼女は脚本から大いにインスパイアされ、この曲を書いたそうだ。

 もう1曲の「孤独のあかつき」はシンプルなポップ・ソングの様相で、こちらは堀江博久のウーリッツァーがいいアクセントになっている。そう、2曲とも鍵盤がポイントだとも言えるだろう。NHKのEテレの番組のテーマ曲で、作詞は同番組の脚本家である渡辺あやだが、制作にあたっては椎名とのやり取りが何度もくり返されたという。その結果、彼女の歌にしては、かなり真っ直ぐで明快なポジティビティを表明する曲に仕上がっている。

 というわけで、久々のシングル・リリースながら、相変わらず作品性の高さをキープしている椎名だが……ひとつ感じるのは、今の彼女はなんらかの外的な要因に影響された上での創作がデフォルトになっているということだ。去年解散した東京事変は(もちろんバンドであるがゆえに)メンバー間の化学反応からで楽曲を作っていたし、4年前のソロ・アルバム『三文ゴシップ』は他アーティストとのコラボがメインだった。また、事変解散後のソロ活動を見ても、配信限定曲の「自由へ道連れ」はドラマ主題歌であり、もうひとつの仕事はNODA MAPの劇中音楽だった。そして今回の2曲も、いずれもタイアップ絡みである。つまりここ10年間の椎名の作品は、自身の欲求から能動的に生み落としたものというよりも、あくまでも他者との交わりが発端に作られてきているのだ。

 そこで、つい思ってしまう。今、椎名林檎にとっての創作とは、はたしてどんな行為なのか? その中で、自らの衝動や、心の底にうごめく感情を音楽に昇華するという欲望は、どのぐらい満たされているのか? この2曲の高度なプロダクトに聴き惚れながら、そんなふうに気を揉んでしまう自分も、またいたりする次第である。

(青木 優)

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