米津玄師 SINGLE「サンタマリア」ディスクレビュー

サンタマリア

SINGLE

米津玄師

サンタマリア

ユニバーサル シグマ

2013.05.29 release

限定予約生産 <CD+絵本> ※UM STORE限定販売
初回盤 <CD+DVD>
通常盤 <CD>


膨張していくポジティブなエネルギー。天才、再び。

 以前、有名な某作曲家が筆者からのインタビューの中で、「俺の学生時代に“ニコニコ動画”があったら、どんなに幸せだったか。見ず知らずの他人に自分の作った曲を聴かせる方法なんて、俺の時代は“プロ”になる以外方法はなかったんだから」と笑顔で憤っていたが、誰もがクリエイターとして、不特定多数の人間相手に自由自在に音楽表現活動が行える幸福な現代においても、天才というヤツはわかりやすいほど爆発的にズバ抜けてしまうものである。天才と一口に言うと印象はライトだが、この超絶的才能は天才以外の何者でもないし、このメロディと物語が投げかけるメッセージの、あまりに美しい“光”を前にしてしまえば、この瞬間、この時代において、彼ほどの表現者は存在しないのではないか? というゾクゾクとした興奮にすら包まれてしまう。こんな経験は久しぶりかもしれない。

 彼の名は米津玄師。ボカロP名は“ハチ”。動画共有サイトにおける動画再生回数は2000万回以上。作詞、作曲、編曲、演奏、プログラミングに留まらず、自らが動画のイラストやアニメーションまで手がけてしまうという驚異的な才能の持ち主として知られる。約1年前にリリースされたオリジナル・アルバム『diorama』はオリコン週間チャート6位獲得、その後もロング・セールスを記録。同作では歌唱も自らが務めた。“人”対“人”によるコミュニケーションの困難さをナイーブに、しかし挑戦的にメッセージとして投げかけ、“光”を見つけようと苦悩する自らの心象風景をドラマチックに描き出した『diorama』。しかし今回のシングル「サンタマリア」で、彼は探していた“光”の欠片を見つけたように感じる。それは、これまでは完全なる自作自演により表現活動を行なっていた彼が、はじめて大勢のミュージシャンと共に本作を作り上げたことも、無関係ではないのではないか。繊細なプログラミング、温もりに満ち満ちたバンド・アンサンブル、天壌から降り注ぐようなストリングスの調べ、そしてストレートな米津の歌。自作自演だけでは成し遂げられない、ポジティブなエネルギーが膨張し拡散していくようなこのサウンド・スケープは、“人”対“人”からしか生み出せないもの。それが彼にとっての“光”だったかどうかはわからないけれど、この力強さ、多幸感は尋常ではない。

 飽食の時代に、時代を語る言葉を持った、ホンモノのポップ・ミュージックによる感動がここにはある。それみたことか、音楽も、まだまだ捨てたもんじゃない。

(冨田明宏)

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