cinema staff ALBUM「望郷」ディスクレビュー

望郷

ALBUM

cinema staff

望郷

ポニーキャニオン

2013.05.22 release


喜びも怒りも悲しみも、すべてさらけ出して君と向き合う

 2ndフル・アルバムであり、メジャー・レーベルに移籍後、初めてのフル・アルバム。彼らは約2年半前に地元・岐阜から上京し、1stフル・アルバム『cinema staff』を作り上げた。タイトルが象徴的だが、今作はそれ以降の彼らの日々や感情が、そのまま反映されているかのように、生々しい。全13曲の振り幅からは、彼らが怒涛の経験をしてきたことが、赤裸々に表れているのだ。

 彼らは年月を経て、どんどん人間くさいバンドになってきていると思う。以前の彼らは、ライブでは自分たちの確固たる色を守り、それをオーディエンスに向かってぶつけている印象だった。楽曲も、キラー・フレーズを盛り込みながら、職人的に構築しているように聴こえてきた。しかし今のライブは、オーディエンスを巻き込みながら、ライブハウスの中に大きなうねりを生み出そうとしているように見える。そして楽曲も、ジャンルに拘らずに、自分たちの思いを託せるリズムとメロディを探して、素直に鳴らしているような気がするのだ。それが結果的に、彼らの世界を大きく開いたと思う。

 特に今作の後半の流れは、でこぼこでありながら、とても清々しく、胸に迫るものがある。“少年は夢を見る。 数字の無いユニフォームを綺麗に畳んで。 グラウンドの外側から一番大きな声を出す。”という、誰もが幼き頃を重ね合わせるような歌詞が、温かなメロディで歌われる「夏の終わりとカクテル光線」。その余韻を打ち消すように、シャウト満載で疾走するエモーショナル・ハードコア「蜘蛛の巣」。追い打ちをかけるように、物語の中に多くの意味をはらんでいることを想像させる「革命の翌日」。——そして、2月にリリースされた生産限定シングルで新境地の発端となった「小さな食卓」、9分にも及ぶ壮大なバラード「溶けない氷」で締めくくられる頃には、彼らの思いが伝わりすぎて、涙がこぼれそうになる。

 決してシンプルでも、ストレートでもない。でも、伝えるためにやるべきことは、そういうことではないのだ。いかに自分たちと、聴き手と、向き合うかということなのだと思う。それをcinema staffは実践し、素晴らしい作品を生み出した。心からの祝福を送りたい。

(高橋美穂)

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