高橋 優 SINGLE「同じ空の下」ディスクレビュー

同じ空の下

SINGLE

高橋 優

同じ空の下

ワーナーミュージック・ジャパン

2013.05.15 release

初回限定盤/写真 <CD+DVD>
通常盤 <CD>


きれいごとにならない希望を歌うために

 おそらく“応援歌”として、この曲は届くんだろう。“歩みを止めなけりゃ 夢は逃げやしないから”“道無き道をどこまでも行こう 何度つまづいても”。そういう、リスナー一人ひとりを勇気づけるような歌詞が歌われている。

 でも、よくあるタイプの“背中を押してくれる”歌とは、この曲は少し違って聴こえる。メロディも力強いし、アコースティック・ギターの響きにも熱が宿っている。でも、何か刺さるものがある。居心地の悪さのようなものが、曲の裏側に宿っている。今の時代に“応援歌”を歌うことの逡巡(しゅんじゅん)のようなものすら、感じる。それは、口当たりの良いポップ・ソングと苦い“本当のこと”の間でバランスを取ってきた高橋 優というシンガーのここまでの歩みのせいもあるのかもしれない。

 高橋 優の新曲「同じ空の下」は、ドキュメンタリー番組「仕事ハッケン伝」のテーマ・ソング。彼の起用を決めたNHK・河瀬大作プロデューサーは、こんなコメントを寄せている。

「高橋 優には、名もなき人々の“声にならない声”に耳を傾け、彼らへのエールを歌ってほしかった。先行きの見通せない21世紀のニッポン、人々はきっと複雑な想いをかかえて仕事をしている。この曲は、21世紀を生きる僕らにとっての“希望の歌”である。」

 しかし、この曲に託された“希望の歌”という思いは、YouTubeに公開されたミュージック・ビデオでは見事に反転している。監督を務めたのはシングルのジャケット写真も撮影しているカメラマン・大橋 仁。ビデオでは、都内在住の64歳一般人男性の日常を追う。主人公の関根さんは、無職、独身。去年心筋梗塞で倒れ、勤めていたタクシー会社を昨年辞めた。酒を飲み、タバコを吸い、テレビを眺めてやることのない一日をやり過ごす。「苦しまず、人知れず、死ねる方法があるなら、いつ死んでもいい」と言う。大橋 仁は、映像の意図について、こうコメントしている。

「夢に立ち向かおうとしているこの曲の中に、対照的な存在として夢も希望もなくしてしまった老人のリアルな姿を描きたかった」。

 同じ空の下を生きる人たちの、たくさんの“声にならない声”に、高橋 優は耳を澄ます。その表現は、決して口当たりの良いきれいごとだけにはならない。そういう誠実さが彼の魅力なんだと、改めて感じさせられる。

(柴 那典)

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

M-ON! MUSICの最新情報をお届けします。

この記事に関するキーワード

この記事を書いた人