スピッツ SINGLE「さらさら/僕はきっと旅に出る」ディスクレビュー

さらさら/僕はきっと旅に出る

SINGLE

スピッツ

さらさら/僕はきっと旅に出る

ユニバーサルJ

2013.05.15 release


スピッツというポップの魔法使いについて

 スピッツの音楽について考えることは、ロック・バンドが表現し得る“ポップの魔法”について考えることと同義である。多くの読者にとってもそうだと思うが、僕はスピッツの音楽に対して否定的なスタンスをとる人に会ったことがない。誇張ではなく、ひとりにも、だ。もはや暗黙の了解といっても過言ではないレベルで、スピッツ=バンド・ミュージックの良心という“感覚”が浸透している。良心、と書くと漂白されたもののように感じてしまうかもしれないが、スピッツの音楽性には愛おしく切ない生と性の気配──そこにはある種の禁忌をおかすようなエレメントも内包している──が、そこはかとなく、しかし確実に鼻腔を蕩かすように立ちこめている。生々しくも夢幻的なその聴感に触れると、リスナーは否応なしにその世界の住人となる。

 すべての源泉になっているのは、草野正宗というソングライターの特異な才能であることは言うまでもないだろう。不老不死のイノセンスを讃えたメロディ・センスと作家性と声色に、僕らは飽くなき憧憬を抱いているのだと思う。だから、草野正宗の歌とリスナーの蜜月関係は永遠に色褪せない。そして、草野の歌を過不足なく息吹かす緻密なアレンジが施されたバンド・サウンドが、“ポップの魔法”を仕上げる。

 実に2年8ヵ月ぶりとなるこの38枚目のシングル「さらさら/僕はきっと旅に出る」を聴いて、上述したことを改めて痛感した。2曲とも始まりの印象は決して派手はないが、時間とリズムと旋律と和声が重ねっていくごとに、どうしたって剥がれ落ちない音楽的心象が築き上げられていく。高山 徹によるミックスも素晴らしい。この2曲を皮切りに、前作『とげまる』以来となるあらたなオリジナル・アルバムへ繋がる道筋が示されていくだろう。ここ10年はだいたい3年に1枚のペースでアルバムをリリースしている彼ら。『とげまる』が’10年10月のリリースだったから、今年はどうしたって期待してしまう。

(三宅正一)

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