かりゆし58 SINGLE「青春よ聴こえてるか」ディスクレビュー

青春よ聴こえてるか

SINGLE

かりゆし58

青春よ聴こえてるか

LD&K

2013.05.08 release

<CD>


30代、かりゆし58の覚悟

 初期の代表作「アンマー」や、昨年のアルバム『5』に収録された傑作「まっとーばー」を聴けばわかるように、極めて個人的な実話をモチーフにしながら、多くの人の心を震わせる普遍的な“ものがたりうた”を作り上げる能力において、前川真悟は豊かな才能に恵まれた人だなとつくづく思う。「アンマー」を思わせるゆったりしたレゲエのリズムに乗せて、“校庭の片隅で遠い目をした青春が”という印象的な一行で始まるこの曲も、その路線に乗ったいい曲だなと初めは思った。が、よくよく聴けば何かが違う。そもそも“青春”が“あいつらは今どうしているんだ”と俺に聞いてきた、という擬人法からして、今までの言葉の選び方とは違う。“もういい歳にもなったし”と、自虐的に答える“俺”。淋しげな顔で“そうか”と笑う“青春”。まともに考えればただの空想でしかないストーリーの背景に、突然“カーラジオから古いロックンロール”が流れ、“俺”の意識は過去と現在を飛び越えて深く自分の内面を見詰め始める──。
 ファンタジックで、ノスタルジックで、しかしはっきりとしたリアリティを持ったこの世界観は、かりゆし58にとって明らかにあらたな挑戦だ。実をいうと最近彼らに会う機会があったのだが、そこで真悟は、今までの表現スタイルを繰り返し続けることを潔しとせず、「新しい表現を見つけたい」と何度も言い、今後に向けての強い創作意欲を語ってくれた。この「青春よ聴こえてるか」は、あらたな挑戦への架け橋になる曲だとも言った。おそらく、いや間違いなく、言いたいことの核心は変わってはいない。この曲で歌われる“僕はここで生きている”“夢は続く”“覚悟はとっくに決めている”といった前向きな言葉は、かりゆし58の持つ、変わらぬポジティブなロック・スピリットのど真ん中にある。その上で、30代になり、子供を持つ親になり、かつて親しんでいたものの価値が変わっていく中で、これからの人生に臨むにあたって新しい意味を持った“青春”を掲げ直すこと。“君をこんなところで終わらせやしない”という最後の一行に込めた万感の思いは、10代20代はもちろん、むしろ30代40代にも強く響く力を持っているはずだ。本当にいい歌をありがとう。ここから始まるかりゆし58の挑戦が実り多きものになることを、心から願っている。

(宮本英夫)

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

M-ON! MUSICの最新情報をお届けします。

この記事に関するキーワード

この記事を書いた人