tofubeats ALBUM「lost decade」ディスクレビュー

lost decade

ALBUM

tofubeats

lost decade

ワーナーミュージック・ジャパン

2013.04.24 release

<CD>


このアルバムに2013年が刻まれていく

 神戸在住の22歳。彼、tofubeatsというトラックメイカー/DJのファジーでありながら忘れがたい名と、あらゆるジャンルの記号性をフラットにしてみせるポップ・センスは、ここ2、3年で少しずつ、確実に、多様な音楽リスナーの耳に浸潤してきた。
 中学1年のときにBUDDHA BRANDの「人間発電所」を聴いてDJに興味を持ったという彼は、間もなくしてトラック制作を始め、ネット上で数々の無料音源を配布してきた。その才能がオフィシャルな仕事を呼び込むまでにそう時間はかからず、“Z”が付く前のももいろクローバーや9nineのリミックス・ワーク、あるいは筆者が彼の存在を知るきっかけとなったtengal6(現・lyrical school)のプロデュースといった“アイドル仕事”がtofubeatsの躍進を加速させたのは間違いない。
 そして、’12年のヒップホップ・シーンを代表するアンセムとなった「水星 feat. オノマトペ大臣」が、文句なしの決定打となった。
 “君は知ってるかい? 踊らな死ぬ事を”——。
 かつて今田耕司が扮したKOJI1200の「ブロウ・ヤ・マインド〜アメリカ大好き」のビートと上モノのコード進行を引用したトラックは、ボコーダーのエフェクトに包まれたラップと歌メロを豊潤に彩り、躍動させながら、ノスタルジックな歌謡性とコンテンポラリーなポップネスをせめぎあわせる。リリックは、昼間は膨大な音源をポケットに詰め込んで街を歩き、深夜には風営法の足音に脅かされながらフロアで踊るリスナーのリアルな心情と情景を映し出す。
 小沢健二 featuring スチャダラパー「今夜はブギーバック」や七尾旅人×やけのはら「Rollin’ Rollin’」がそうであったように、時代の真ん中を射抜くラップ・ソングが、最高のシティ・ポップになる奇跡的な必然が「水星 feat. オノマトペ大臣」にはあった。しかもこの曲が東京ではなく神戸で生まれたということ。それは奇跡でなく必然でしかない。インターネット発で全方位に広がる自由のビート・メイクとポップ・センスを駆使してリスナーにアクセスしたtofubeatsは、もはやポップ・ミュージックの最先端が東京在住によるアーティストが東京人のため(または東京に憧憬を抱く人々)だけに捧げるものではない時代の始まりを告げた。
 そして、“卒業制作”と位置づけられた本作『lost decade』でtofubeatsは、完璧なまでに今もっとも時代に愛されるべきポップ・マエストロとなる。変幻自在のビートを擁するトラックは徹頭徹尾同時代的なエンターテイメント性に富んでいて、客演の人選も絶妙に“いまとこれから”を突いている。1曲1曲が独立した中毒性をたたえ、ポピュラー・ミュージックの尺度さえも更新し得る本作が、’13年を代表する一枚となるのはすでに確定したようなものだ。

(三宅正一)

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