トーマ ALBUM「アザレアの心臓」ディスクレビュー

アザレアの心臓

ALBUM

トーマ

アザレアの心臓

dmARTS

2013.04.03 release

初回生産限定盤 <CD+DVD>
通常盤 <CD>


異能のボカロPがメジャー1stアルバムを発表!

 ’00年代に隆盛していたUSインディーの一流派、マスロックのごとき緻密かつ複雑かつ先鋭的なバンド・アンサンブルだが、今の若い音楽ファンにはきっと、RADWIMPS的な密度の詰まった、歌詞が速射砲のように吐き出されるミクスチャーっぽいグルーヴを採用したロックというと、少しはわかりやすいのかもしれない。しかし、この狂気的な調子でスイッチしまくる変拍子や連続する転調、高速で刻みつけるような譜割りは実際のところ、ボーカロイドでなければ上手に歌えないだろうなと思う。ボカロ・ムーブメントは昨今かなり日常的なレベルにまで浸透し、初音ミクがGoogleのCMやコンビニのキャンペーン・マスコットに起用されるようになってすでに久しい。とは言え、キャラクターとしての人気の影にまだまだ埋もれがちなのがボカロPの存在だ。このトーマのように、作詞・作曲・編曲にコンセプト・メイキングまできっちりと自作自演し、プログレのような物語音楽を織り上げる天才的なクリエイターが支えている文化であるということは、意外とまだ知られていないのかもしれない。昨今のネット・クリエイター特有の、音楽ジャンルのコンテクストを豪快に無視した、ロックやメタルやエモやハードコアやポスト・ロックやトランスやEDMやJ-POPやアニソンやアイドル・ポップをシュレッディングして縫合したような野心的なサウンドを持ちながらも、“街”をテーマにしたコンセプト作品であるがゆえに、不思議と聴いていて散漫な印象はない。歌詞には彼らしいデカダンスな哲学に貫かれており、“toi”の描いたイラスト共に堪能すると、このアルバム全体から興味深いメッセージが立ち上る。
 メジャー初となる本作で、アーティスト=トーマとしての個性は充分に見せつけることができただろう。ボカロ・カルチャーを支えているユーザーは主に10代の若者たちだが、彼ら/彼女たちが本作のような、(メロディアスだしポップではあるが)非常に難解な音楽性を支持していることが、なんだかすごく面白い。ボカロ・クリエイターたちが描く楽曲の物語性を深く読み解き、ジャンルレスなアレンジメントと内省的なサウンド・スケープに心踊らせている若者たちがこれからの音楽シーンを担うのだとしたら、未来の音楽シーンはなんだか面白いことになりそうな気がする。

(冨田明宏)

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