Base Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。今回は、小出部長が「俺にとってのスター・ウォーズ」と声を上げたJホラーの傑作。ミュージシャン枠を超えてこの界隈におけるトップクラスの語り手となりつつある小出部長が、あなたを素晴らしきホラー映画の世界へご案内します!
活動第23回[後編]「残穢【ざんえ】 -住んではいけない部屋-」
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、福岡晃子(チャットモンチー)、オカモトレイジ(OKAMOTO’S)、ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)
原作、そして映画への幸福な連鎖に感動した
──[前編]は原作の解説でほぼ終わりましたが(笑)。
小出祐介 はい(笑)。ここまでは原作アングルの話なんですけど、じゃあ映画アングルはどうかといいますと、重要なのは監督が中村義洋さんってことなんです。
中村さんは「ほんとにあった!呪いのビデオ」シリーズ(以下「ほん呪」)の1本目から演出を務めた、シリーズの立ち上げ人なわけですよ。
オカモトレイジ 白石晃士監督も輩出した「ほん呪」ですね。
小出 そうです。ここ15年で作られた、主にレンタル市場向けのフェイクドキュメンタリーホラー作品ってすごい数がありますけど、これは「ほん呪」が当たったからこそ生まれた流れなんですよ。実際、ほとんどの作品が「ほん呪」を参考に作られていますし。
逆に、近年のJホラーの盛り上がりに大貢献した白石監督の「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」シリーズは、この構成を使って大ジャンプしたところにすごさがあると思うんです。それでもやはり、“「ほん呪」的なものを想像させて裏切る”ことから始めているので、その影響も大きいと言えると思います。
というふうに、日本のフェイクドキュメンタリーホラーシーンの基礎を作ったのは中村義洋監督だといっても過言ではないわけなんです。
そして、その中村監督が「残穢」を撮るということは、原作者・小野さんが踏まえた実話怪談の文脈と、中村監督が築いたフェイクドキュメンタリーホラー文脈の邂逅でもある、と。
どちらのシーンも、作品数が多過ぎるがゆえの消耗を感じる時期もありましたから、再び高まってきた今のこのクロスオーバーはさすがにグッときますよね。
ハマ・オカモト 部長、熱い!(笑)
小出 しかも今回、「残穢」の監督に中村さんを指名したのも小野さんらしいんです。小野さんはDVDを全巻持っているくらいの「ほん呪」の大ファンで、直々に「これを撮るなら中村さんでやってほしい」って。だから「残穢」も「ほん呪」をイメージして書かれていたんでしょうね。
それを中村さんがさらに踏まえたうえで映画化しているから、メジャーな劇場映画なのにすごい「ほん呪」っぽかったんですよ。
ハマ へえ~。
小出 例えば、テロップによる情報表示だったり、インタビューを受けているみたいな構図の画があったり、証言の途中に再現VTR的な映像が挿入されたり。
定番の流れとして、“最後は本拠地に乗り込む!”とか(笑)。現地に行ってみた結果、禍々しいものは見つかるけど、真相が完全に明らかになるわけではないっていうのも、本当に「ほん呪」っぽい。
具体的にいうと、中村監督が担当した「ほんとにあった!呪いのビデオ Special」に構成が近いですね。
福岡晃子 あはは。
小出 もはやセルフオマージュ感すら感じました。低予算でやっていた「ほん呪」のメソッドを、小野さんが好きでリクエストしてくれて、今回みたいな中々のバジェット感で再現するとこうなるんだなぁと。……結構お金かかってるよね、これ?
福岡 うん。安っぽさはないよね。
小出 そこに感動したんだよね。「ほん呪」から「残穢」の原作、そして映画への幸福な連鎖に。
Jホラーっていうのはここ15年ぐらいすごく不遇だった
レイジ 中村監督ってすごいですね。過去の作品一覧を見ると、いろいろなタイプの映画を撮っていて。「ジャージの二人」の監督と同一人物なんだって、びっくりしました(笑)。「白ゆき姫殺人事件」と同じ監督だとも思っていなかったです。さらに「ゴールデンスランバー」の監督なんですね。
ハマ そうなんだ。だから滝藤賢一さん(主人公の旦那役)が出演しているんだ。「ゴールデンスランバー」の最後、堺雅人さんが演じた主人公の整形した後の人って、滝藤さんですよね。
──正解。まさにブレイク前の滝藤さんを中村監督が起用されていたんです。
小出 その中村監督もホラーはかなり久々なんですよね。ちなみに、映画だけだとタイトルの意味ってそんなにわからないよね?
直接的には“穢れが残る”っていう意味だけど、それがどうして恐怖の数珠繋ぎみたいなことが起きていくのかってわからなくないですか?
ハマ たしかに。
小出 原作ではバッチリそこにも触れているんです。“穢れ”という観念、考え方っていうものが日本人の思想の中ではすごく根深いところにあって。
「残穢」に関係のある視点としては、まず、平安時代の法律である「律令格式」というシステム。その「格式」に「延喜式」というものがあって、そこに「穢れ」についてのハッキリとした規定があるんですね。
「死穢・産穢・血穢」の三不浄を中心に、“穢れ”は最も忌避すべきもので、かつ、触れれば伝染していくものだと。で、触れてしまった場合、その「穢れ」が落ちるまでの一定期間、祭祀などには参加させませんよという、つまり、法律だったんです。
これは当時の平安仏教である天台宗と真言宗が密教を導入していることに由来があると言われているんですが、そもそも密教というのは仏教がヒンドゥー教を取り入れることで成立していったもので……
(以下、“穢れ”についての話がえんえん続く)
レイジ (しばし絶句して)……もう部長、詳し過ぎっす! 出家しちゃうのかな、この人はって思いました(笑)。
小出 「残穢」を読んだら、“穢れ”そのものについてがすごく面白くなってきて。原作にも甲乙丙丁展転の話はバッチリ出てくるよ。延喜式の話も出てくるし。
福岡 なんか大学の講義みたいだったな(笑)。

[前編]でも触れられた小出部長のメモの一部。学生時代、さぞかしきれいにノートを取っていたのだろうと思いきや、授業中は寝てるか歌詞を書いているかだったそうです。

所用で先に出てしまったハマくんの似顔絵を描くレイジ画伯。この方は学生時代からあまり変わっていないという声も。