TEXT BY 森 直人(映画評論家/ライター)
活動第20回「バクマン。」[後編]
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、オカモトレイジ(OKAMOTO’S)、ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)、ノザキくん(みんなのお友達)
原作と映画がいちばん違うところは「まんが道」の要素を持ちこんでいること
小出祐介 原作と映画がいちばん違うところは、映画には「まんが道」(藤子不二雄Ⓐ先生の自伝的漫画。のちの漫画家の巨匠をたくさん輩出したトキワ荘の青春群像が描かれる昭和の名作)の要素をガッツリ持ちこんでいることかなぁと。
もちろん原作の「バクマン。」も「まんが道」的だってことは常々言われていたとは思うんですけど、オマージュ的なシーンはあっても、作品そのものは持ち込まなかったんですよね。梶原一騎さんの「男の条件」なんかはしっかり引用されてるのに。
それは、そもそも近い要素のある「まんが道」を引用してしまったらいろいろブレるからなんだと思うんですよ。ジャンプ・イデオロギーへの意識も、メタのグラデーションも崩れるから。リスペクトはしているけど、リスペクトは体現していくことで表現したというか。
──なるほど。
小出 一方で映画版「バクマン。」は濃厚なジャンプオマージュの映画であるわけですよ。ジャンプの基本的な精神理念である〈友情・努力・勝利〉の三本柱をストーリーにわかりやすく組み込んでいたし、映画のクライマックスのハイタッチのくだりなんかは、「スラムダンク」のクライマックスである“山王戦”のあのくだりをそのまんまやっていて。劇中でやたら妙に「スラムダンク」を匂わせるなぁと思っていたら、「スラムダンク」を思いっきり構造に取り込んでいたというわけです。
──たしかに!
小出 で、じゃあ、なんでここに「まんが道」を持ち込んだの? っていう(笑)。後半のめっちゃ〈友情・努力・勝利〉なシーンで、カメラがパンして、写真立てに入った満賀道雄(「まんが道」の主人公。藤子不二雄Ⓐ先生自身がモデル)の後ろ姿のカットが映る……とかね。
──「おれの恋人はまんがや!!」という1コマですね(立志編「東京へ」より)。
小出 そう。だったらそこは原作みたいに徹底したジャンプ・イデオロギーの中での様式美を守ってもらいたかったんですよね。いろいろノイズに感じるものが多いなぁと思いました。
オカモトレイジ それは知らなかったです。
小出 他にも細かいトキワ荘ネタはいっぱいあって、中井巧朗(皆川猿時)が「じゃあ、俺はテラさん(トキワ荘仲間の長兄的存在だった漫画家・寺田ヒロオのこと)な。いちばん年上だから」って言ってキャベツ炒めを作るとかっていうのは、あれもトキワ荘ネタなんですよ。そのへんはやっぱり「まんが道」を知っているとクスッとはくるんだけど。でもそれとこれとは別問題だ! と(笑)。
──だから映画版は実質「まんが道」と「バクマン。」(あるいはジャンプ)のダブルスタンダード。中井巧朗のようなおじさん世代は、あそこで「まんが道」の喩えが出ちゃうと。
小出 それはそうですね。だから、その下の世代の若手漫画家たちは「スラムダンク」の話で盛り上がるっていう。
憑依俳優ぶりがすご過ぎる。なんなんだろう、あの演技力
ハマ・オカモト 僕がその話を受けて言いたいのは、やはり若干伝わりづらかったなという印象ですね。小ネタや情報が「わかる人にはわかる」ものばかりで。ではなくて、あんなにGペンの音なんかをきちんと録ったりしているので、具体的な漫画家の仕事の仕組みにフォーカスしていたら、映画としてもうちょっとワクワクできたのかなと思いますね。
小出 たしかに。そこは大根監督の「モテキ」とかでもやっていたようなオタクな部分がすごい出たんだろうなと思うけど、それよりもGペンって顔の輪郭の線に合わせてペン先を替えるんだ、とか、そういうのが本当はワクワクするところだから。ああいう漫画家ならではの、漫画家じゃないとわからない事情を教えてくれたほうが、こっちとしてはもっとノっていける。
伊丹十三監督の映画はそうですよね。例えば、「マルサの女」なら「マルサ(国税局の査察部)の仕事はこういう仕事なんです」っていうのを解説しながら、だんだんストーリーに乗せていくという。
ハマ 本当そう思いました。ただ役者はすごい良かった印象です。
ノザキ (パンフレットのキャストを指しながら)桐谷健太さん(漫画家のひとり「福田真太」役)さん、最近すごい好き。
ハマ 僕も好き。昔から大好き。桐谷さん、すごいよ。
レイジ よーかいくんがアシスタント。
ハマ よーかいくんも良かったよね。
小出 よーかいくん?
ハマ この人のアシで出てきたヤンキーがいるじゃないですか。あれはJAPAN-狂撃-SPECIALというバンドの元ベーシスト。でも辞めて今は俳優業をやっていますが、以前僕らと対バンしたりもしてまして。
レイジ 名前変わってたよね。
ハマ あっ、(なめんな)よーかいさんだ! と思ったら“よーかいくん”って名前になっていて(笑)。これは話題に上がりませんでしたが、今回僕はすごく良いなと思いました。
小出 僕は山田孝之さん(サイコー&シュージンの担当編集者「服部哲」役)がいちばん良かったですね。ド頭のシーンからすごいなと思った。
ハマ いや、あの原稿を読むシーンですごく良いなと思いました。感情が爆発するのって本当に1回じゃないですか。天才ですよね。
小出 憑依俳優ぶりがすご過ぎる。なんなんだろう、あの演技力。不摂生な編集マンのリアリティをすごい出しているよね。
──漫画の持ち込みに来た人に対して邪険に扱うでもなく、だけど親身にし過ぎるわけでもないところから、徐々に感情を積み上げていく感じとか。神技だよね。
小出 原作だと服部哲のキャラクター造形は全然違うんだけど、あの持ち込みのシーンには服部のモノローグがあるんですよ。要は心の声の葛藤があったなかで、「ちょっともう1回読ませてもらうね」って言うんだけど、山田孝之さんはモノローグなしで心の動きを表現しきってる。
ノザキ あと小松菜奈の使い方も良かった。
小出 最初、サイコーの描いている漫画の美少女として出てくるじゃないですか。そっから現実の小松菜奈が出てきても、まったく違和感がないんだよね。逆トレースというか。そこは小松菜奈だから成り立った。
レイジ たしかに小松菜奈はすごい。というか、小松菜奈以外に女の人は出てこなかったですよね。ひとりも。
小出 そうだね。そこも原作とは違うんだけど、ある意味、原作よりジャンプ的かも。ジャンプのバトル漫画的な。バトルに女の子は介在してこないってことかもしれない。
例の“バック・トゥ・ザ・フューチャーの日”が近いことを意識してかの小出部長のTシャツ。もちろん私服。映画好きがガチ過ぎる……。