「ホンマでっか!? TV」出演の医学博士が説く、音楽が心と身体に与える影響[前編]

2015.07.20

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「音楽は薬と一緒。脳への報酬」音楽治療評論が語る音楽の効果

今年1月、バラエティ番組「ホンマでっか!? TV」(フジテレビ系)で、サン=サーンスの組曲「白鳥」が頭痛に効く音楽であると唱えた、医師/医学博士・藤本幸弘氏。音楽治療評論家として同番組に出演した同氏は、音楽が人間の脳に与える影響を医学的なアプローチによって研究しているエキスパート。そして6月17日、自身が選曲・監修を手掛けた画期的なコンピレーションアルバムを3タイトル発売したばかりで、各メディアでも話題になっている人物だ。

今回発表された作品は、「痛み」「悩み」「不眠」といった不調に効果があるというクラシックの名曲を集めた、その名もズバリ「藤本先生の聴くだけでスッキリ!」シリーズ。クラシック音楽の名演・名盤の宝庫と言われる、ドイツ・グラモフォンとDECCAという名門レーベルの音源を使用したクラシックファン垂涎の贅沢な同シリーズ。音楽が心身に良い影響を与えるというのは定説だが、そこにはいったいどのような根拠があるのだろう? 今回、そんな素朴な疑問を藤本氏本人に直接ぶつけてみた。今作のシリーズが、ストレス社会に生きる我々現代人にとって、一縷の希望となるものであるように……そんなことを願いながら、音楽と脳の関係を探っていくインタビュー前編である。

 

◎音楽が不調に効くってどういうこと?

──音楽が聴く人の気分を高揚させたり、リラックスさせたりする、ということは知られていますが、心身体の不調を直すというのはどういうメカニズムによるものなのでしょうか?

藤本幸弘 音楽が脳に作用するという事実が証明されたのは、つい最近のことなんです。ファンクショナルMRIという最新の測定器機を使って、音楽を聴いたときに脳のどの部分が活性化されるか、ということを実際に可視化できるようになってきたからです。人間の脳は大きく旧脳と新脳に分けられますが、音楽はその両方に影響を与えます。動物と同じく人間が持っている、食欲、性欲、睡眠欲という三大欲求を司るのが旧脳、そしてそれを抑制するのが大脳新皮質とも呼ばれる新脳。旧脳だけが働いていると人間は社会生活が営めないですよね。新脳はそれを押さえることでバランスを取っているんですが、例えばお酒を飲み過ぎちゃったりすると、そのストッパーが外れちゃったりする人もいるわけです(笑)。両者のバランスが取れているのが理想の状態ですが、音楽はこのどちらにも刺激を与えて良い状態にしてくれます。さらにもう少し説明すると、旧脳は太鼓などのリズム、新脳は、ハーモニーやメロディといった少々複雑なものを理解する働きがあり、こういった働きをもって音楽を理解するという作業自体が、私たちに快感を与えてくれるんですよ。

 

◎音楽は脳に報酬を与える

──音楽を理解することで快感を得る、というのは具体的にどういうことでしょうか?

藤本 例えば、好きな音楽を聴いていると気持ちが高ぶりますよね? あれはドーパミンが出ているからです。ドーパミンが出るとβエンドルフィンが分泌されるんですが、これはモルヒネの6〜7倍の鎮痛効果があって、たくさん出ると、いわゆる“ランナーズハイ”と呼ばれるような状態になるんです。

──なるほど。たしかに音楽を聴いていると気分が高まって、一種の興奮状態になることがありますよね。

藤本 音楽は薬と一緒ですから。好きな音楽を聴いているとき、盛り上がる部分、つまりサビなどの部分を予想するじゃないですか。実はその直前から脳が反応してドーパミンがわっと出てきて、高揚した気持ちの良い状態になるんです。

──ライブやコンサートでいちばん盛り上がる瞬間ですね。

藤本
 最近の実験では、気に入った音楽をAmazonで買おうとして購入ボタンを押しただけでも、ドーパミンが出てくることが明らかになったんですよ。聴かずしてすでに快楽を味わっている状態もあり得るんです。こうした、音楽が報酬として脳に認識されるという事例や研究は、欧米だと進んでいて論文も結構あるのですが、日本ではまだあまりないですね。英語の論文が日本語に翻訳されて広まるまでに大体5〜6年と言われているので、もう少し時間が掛かりそうです。

 

◎痛みを消してくれる音楽

──音楽で快感を覚えることはなんとなく理解できましたが、痛みが消えるというのはどういうメカニズムなんでしょうか?

藤本 元々祖父がペインクリニックの先駆けのようなことを行っていたので、その影響もあって痛みについては、大学に始まり病院でも多く学んできました。痛みには怪我や病気による急性のものと、それらを治癒した後も痛みだけが残ってしまったり、原因を特定しきれなかったりする慢性のものと2種類が存在します。急性痛に関しては病院に行くべきですが、そうでない慢性痛には自律神経が影響しているので、交感神経の緊張を取ってあげることが効果的です。音楽を聴いてそれに没頭すると、大脳が活発に動いてくるのですが、このときその下位にある神経が“マスク”されてしまうことによって、痛みという感覚が減るんです。これを「聴覚性痛覚消失」と呼びます。

──音楽に没頭することで痛みを忘れてしまうと。

藤本 ええ。僕の病院(千代田区・クリニックF)でもBGMとしてクラシックをかけていますし、先日知人の歯科医院で奥歯の治療をしてもらっているときにも、ちょうど大好きなクラシックの曲がかかっていて。耳を傾けていたら歯の痛みを忘れることができました(笑)。

──どんなシチュエーションでも、例えばなにかをやりながら聴いても効果はありますか?

藤本 そうですね。ながらで何度も聴いて曲を覚えてもらうとより効果的です。聴き流しながらでもメロディを覚えたりして曲への理解を深めてもらったほうが、ドーパミンが出てくるので。

──クラシック音楽でないと効果はないのでしょうか? 例えばロックやJ-POPといった他のジャンルは?

藤本 どんなジャンルでも、リズム、メロディ、ハーモニーがあればそれなりの効果はあると思いますが、脳の活性化される部分が若干違ってくるんです。特にボーカルが入ってくると、歌詞という別のファクターが入ってきて、“言語”として処理されてしまうのでちょっと効果がわかりづらくなってしまうかもしれません。あと、僕自身が昔ロックを聴いていたのでよくわかるのですが、ロックやJ-POPって大体4〜5個くらいの楽器を使ったシンプルな構造になっていますよね。それに比べるとクラシックは、非常に複雑な構成を含み、様々な伏線が張られている“仕組まれた”音楽なので、脳に与える快感も多くなります。脳は複雑なものを理解したときのほうがより感動や喜びを覚えるんですよ。

 

[後編]では、悩みを解決してくれる音楽について語っていただきます! こうご期待。

PHOTO:(C) seefool – Fotolia.com

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