辛辣に問題提起するバンド「パスピエ」は、なぜ観客を煽るのをやめたのか?

「僕は、ステージにずーっと背を向けてサークルやオイオイコールを煽る人は違うんじゃないかと思っています」
「本当に目立ちたいならバンド組んでステージ上で勝負しましょう。そこからの景色は鳥肌モノなので」
「あなたが思うバンドの楽しみ方と別の楽しみ方を好む人もいます。ライブ会場ではオーディエンスの数だけ楽しみ方があります」

これらの発言は、パスピエでキーボードと作曲を担当する成田ハネダが今年の8月13日に発したツイートから抜粋したものです。この日は折しもパスピエが『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2016』に出演するちょうど前日。フェスシーズンのど真ん中に、読み方によってはケンカ腰とも取れる刺激的な表現を交えながら“ライブ/フェスにおけるバンドとオーディエンスの関係性”について一石を投じました。

個人的にはここでの主張にはほぼ全面的に賛成であり、またアーティストサイドからのこういう意見表明はどんどんなされるべきだと思っています。とにかく“盛り上がれればなんでもいい”とでもいうような風潮が強くなりがちな昨今のライブやフェスのあり方に対して、アーティスト側からカウンターが繰り出されるのはとても価値があるもののはずです。

一方で、では“盛り上がれれば良い”というタイプの音楽を志向しているわけではないパスピエがこういうことを言わないといけない状況になっているのはなぜなのか……というと、ここにはパスピエがここまで辿ってきた足跡が大いに関係しています。順を追って振り返ってみましょう。

 

「ポスト相対性理論」というコピーがついて回ったデビュー時

2009年に結成されたパスピエが一部で話題を集め始めたのは、2011年にリリースされた初の全国流通盤『わたし開花したわ』の頃でしょうか。僕がパスピエのことを知ったのもちょうどこの時期で、タワーレコード渋谷店の試聴機で出会って思わずCDを購入。直後にあった下北沢BASEMENT BARでのライブにも足を運びました。この時のパスピエはあくまでも対バンイベントの出演バンドのひとつという位置付けで、お客さんは数十人程度。ライブ後の物販にはボーカルの大胡田なつきが普通に立っていました。

この当時によく言われていたパスピエに関する説明ワードが「ポスト相対性理論」。アートワークに顔を出さないことで生み出されるミステリアスな雰囲気や不可思議な歌詞、そしてキャッチーなメロディなど、共通する要素は確かに複数ありました。ただ、ライブを観るとパスピエは明確に“5人のバンドであること”を志向しており、当時からバンドというフォーマットをそこまで重要視しているようには見えなかった相対性理論(この感じはここ数年でますます強まっているように思えます)とは決定的にスタンスが違いました。

パスピエは2012年6月に『ONOMIMONO』でメジャーデビューを果たしますが、この「ポスト相対性理論」というコピーはその後もしばらくついて回りました。“似てなくもないが目指すものは全く違う”というバンドを絶えず引き合いに出されるのはなかなかしんどい状況かと思いますが、これについて成田ハネダはギャップを感じつつも「自分らの気持ちは置いといて“パスピエってこんなバンドだよ”と認知されたのはよかったかな」とポジティブにも捉えていたようです。

本来は不本意なラベルであっても、「こういうバンドだ」と認識されることによって多くのリスナーにリーチできる。まずは知ってもらうことが重要だし、そこで聴いてもらえれば好きになってもらえるはず。そのような思考プロセスが当時のパスピエの根底にはあったのだと思います。

観客をアゲまくることで生まれた副作用

そんな流れのなかで、メジャーデビュー翌年の2013年にパスピエがリリースしたのが初のフルアルバムとなる『演出家出演』。ここでパスピエが狙いを定めたのが、当時の(そして今に至るまで)ロックバンドの主戦場となっているライブシーン(フェスシーン)でした。

「S.S」「はいからさん」「フィーバー」といった“ライブ(フェス)”で“上げる”のに最適な楽曲が多数収録されたこのアルバム。合わせて、ライブにおいてもステージ上で手拍子を煽るようなアクションがこれまで以上に目立つようになりました。そして、音源とステージ上の振る舞いの組み合わせによって、パスピエは見事に“ライブシーンにふさわしいバンドである”という認識を得ることになり、そこでの大きな支持を獲得しました。

ただ、これに関してはちょっとした副作用がありました。ライブシーンにがっつり適応した結果として、その音楽性に反してパスピエのライブの雰囲気はこの時期とても「ラウド」な方向に振れることになります。今までは会場前方でも起こることのなかったモッシュが発生するようになり、ときにはペットボトルまで飛び交うような状態になりました(2013年12月の赤坂BLITZでのライブを比較的前方で見ていたのですが、周りの暴れっぷりにとても驚いた記憶があります)。

ここで冒頭の話に戻ると、パスピエが苦慮するオーディエンスとの関係性の問題は2013年時点から続いているものとも言えると思います。パスピエにとって『演出家出演』はロックバンドとしてのポジションを確立した重要な作品であると同時に、この時を境に彼らは“ライブでのオーディエンスとの向き合い方”という懸案事項を抱えることになりました。

「トリッキーな存在であることを捨てる」という意思決定へ

入ろうとしていたシーンでの支持をある種の「犠牲」を払ってまで確立したわけで、そのポジションに安住するということもできたと思います。ただ、パスピエの目指すところはもっと大きいフィールドであり、ほどなくして彼らは次なるモードに移行していきました。2014年にリリースされた『幕の内ISM』は、ライブシーンに閉じずにさらに間口の広いポップソングを志向した作品(ライブの仕方も、手拍子を煽るようなアクションが減少するなど幾分のマイナーチェンジがありました)。

また、海外でのライブや英語詞の作品のリリースなど、グローバル展開を見据えた活動も開始。アートワークにおいてもこれまでも随所に見られてきたジャポニズム的な趣味をより前景化させるようになりました。

ライブシーンで支持を集めつつ、「バンドの音楽=ライブで騒ぐもの」というような構図に囚われない取り組みを多数行ってきたパスピエですが、そんな流れが帰結したのが2015年のアルバム『娑婆ラバ』。メジャーデビュー以来、メタモルフォーゼを繰り返しながら進化を続けてきたバンドのひとつの完成形です。普遍的な歌謡性をもちながらフィジカルな欲求も刺激するパスピエ流の「ポップ×ロック」を基調としつつ、オリエンタルなムードの強い楽曲など盛り上がり一辺倒ではないチャレンジも多数見られるこの作品は、バンドのレベルをひとつ上の段階へと押し上げました。

『娑婆ラバ』のリリースを経て2015年の12月に行われたのがバンド初となる武道館公演です。「電波ジャック」「トロイメライ」という初期曲から始まり『娑婆ラバ』の最終曲「素顔」で終わるというここまでの作品を網羅した本編のセットリストは、彼らのキャリアの総括としか言いようのないものでした。

そして、2016年。パスピエはバンドとしての新章を開始すべく動き出しました。まず最も大きかったのが、メディアにおける「顔出し」の解禁。テレビにも出演し、晴れて「普通のバンド」になりました。さらに、“トリッキーな存在であることを捨てる”という意思決定とリンクするかのように、リリースされる新曲からも“周りのことはどうでもいい、良いものは良い”とでも言うべき迫力が今まで以上に漂ってくるようになりました。

顔出し解禁のタイミングでリリースされた「永すぎた春」で鳴らされている雄大なサウンドスケープからは、ライブシーンが云々(「そこで支持を得る」であったり「そこから離れる」であったり)などというちまちました話ではなく、バンドフォーマットでできる音楽の更新を目指す野心が垣間見えます。

この曲の“等身大の自分なんてどこにもいなかった”という歌詞は、周辺状況に応じて形を変えてきたパスピエが今だからこそ歌えるキラーフレーズです。また、「メーデー」はシンプルなバンドアンサンブルを聴かせる手堅い楽曲になっており、ギミックに頼らずともメロディの展開だけで十分にドラマチックさを表現できるという確信が感じられます。

シーンの趨勢への目配せや戦略的なポジショニングの変換ではなく、自分たちがピュアに鳴らしたい音楽により忠実になることが大事。いずれの楽曲からもバンドとしてのそんなスタンスが見えてきます。

2016年は「環境への適応」から「新しい場所の開拓」へのシフト。2017年は?

ここまでの話をまとめると、2015年までのパスピエが“周辺環境を巧みに察知しながらそこにハイクオリティのアウトプットをぶつけていく”ことに主眼が置かれていたのだとすれば、2016年からのパスピエは“自分たちのやりたいこと、そしてまだ誰もやっていないことを出していく”というやり方に明確にシフトしたと言えるのではないでしょうか。だからこそ、自分たちのオーディエンスに対しても言いたいことを言う。環境への適応ではなく、新しい場所の開拓。そんな気概がビシビシ伝わってきます。

現状ではパスピエはその「開拓」に向けての地ならしが済んだタイミング、という感じだと思います。年明け早々に新しいアルバム『&DNA』がリリースされる2017年こそ、いよいよ新しいパスピエが本格的に姿を現す年になるはず。いつの間にか中堅の域に含まれる存在になってしまいましたが、“フェスを主戦場とするバンド”にはできないアウトプットをどんどん出してくれることを楽しみにしたいところです。

TEXT BY レジー(音楽ブロガー/ライター)


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